麻酔は実験動物に多大なる影響を及ぼすと共に,動物実験のデータをも左右する.従って,その適正な使用は大変重要である.また,動物実験は本来,ヒトへの外挿を想定している.従って,実験動物に対する麻酔も,出来るだけヒトに準じた処置を施す事が望ましいと考えられる.しかし,実際にはヒトと実験動物への麻酔法は大きく掛け離れているのが現状である. 以上の背景を鑑み,本研究では,ヒトや小動物の臨床において一般に用いられている全身麻酔の1つである気管挿管を施して人工呼吸器を用いた吸入麻酔を,実験動物として最も頻繁に使用されるマウスやラットを用いる実験者に普及出来る程度に,出来るだけ簡便かつ確実,そして実践的な方法を開発する事を目的とした. まずマウスやラットに対して,内視鏡を用いて気管挿管を施した.次に本助成金にて購入した人工呼吸器を備えた「ソムノスイート低流量マウス・ラット用麻酔システム(MAS)」を用いて,イソフルランによる吸入麻酔を施した.また麻酔中のバイタルサインや呼吸に関する各種パラメーターに関する情報も測定し,そのデータを検討した.その結果,MASを用いた1時間程度の吸入麻酔では,ラットに関しては,麻酔時間の経過とともに血中酸素飽和濃度(SpO2)の低下が示唆されたものの,ヒト同様に比較的安全な麻酔を施せる事が示唆された.一方,マウスの場合には,SpO2の経時的低下が顕著で,呼吸に関しても不安定な値を示した事から,より詳細な検討が必要と思われた.
|