研究課題/領域番号 |
15K06816
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
持田 慶司 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 専任技師 (60312287)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 凍結保存 / 胚 / 精子 / 寒剤 / 氷晶形成抑制 |
研究実績の概要 |
マウス受精卵や精子の凍結保存技術は家畜やヒトに応用されてきたが、液体窒素もしくはドライアイスがなければ細胞内の氷晶形成や保存液による細胞毒性、細胞代謝の維持等によって冷凍温度での保存は不可能と考えられている。我々は-70℃~0℃の温度域での受精卵および精子の安定的な保存を目指して検討を行った。 1.受精卵:体外受精によって得られた2細胞期胚を極度に高浸透圧のガラス化液内で保存した後に、アルミニウムバッグに収納し、-80、-40、-20℃の各温度で一定期間保持してから回収して生存率を確認したところ、-80℃では1週間以上、-40℃では1日前後、-20℃では1時間以上の保存が可能であることが分かった。更にガラス化液に氷晶形成の抑制物質や高分子を配合した場合や、保存に用いる胚の発育段階を様々に設定、保存容器を変えて冷却・加温速度の影響などを詳細に検討した。中でも高分子等による氷晶形成抑制効果には改善がみられたことから、更に効果的な保存液の開発に有効であろうと考えられた。 2.精子:一般的に広く用いられている保存液で凍結された精子では、-80℃のディープフリーザーに7日間保存しても受精率は75%と高かった。-40℃に1時間保存した場合でも40%、24時間では22%の受精率が得られ、7日間でも4%の卵子を受精させることが可能であった。更に保存液へ高分子等を添加して改善を進めているところである。 受精卵と精子共に-40℃で1日前後であれば保存できる可能性が示されたことから、寒剤と氷を利用した保管および輸送が実現できる可能性が示唆された。これらの技術は家畜やヒトおよび細胞への外挿、緊急災害時やフィールドワークおよび発展途上の国々など液体窒素が入手困難な状況でも応用可能と考えられ、様々な用途に発展する可能性を有する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の研究により、凍結保存した受精卵および精子を-40℃で一定期間保管することが可能となった。このような成績は報告例がなく、本研究によって初めて成し遂げられた結果である。しかしながら、その保存可能な期間は約1日間であり、実際の輸送実験に用いるには保存期間の延長が可能なプロトコールの作成が重要となる。 現在までに種々の条件検討を試みてきたところ、受精卵および精子の保存の成績が突出して良い場合が見受けられた。追試を行うと成績が変動して再現が困難なケースが見られたことから、不安定さを生み出している要因の調査を行っている。もしこの要因が特定できれば、世界中で用いられている現在の方法よりも優れた凍結保存方法が開発できると考えている。 初年度の実験のみではこれら新規プロトコールの決定には至らなかったことから、「やや遅れている」を選択した。しかしながら、特に凍結胚の-40℃保存の成功は、将来的に簡易輸送が期待できる成果として、2016年7月にアメリカ(サンディエゴ)で開催されるアメリカ繁殖生物学会での発表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
1.凍結した受精卵と精子の保存および輸送:-40℃での保存期間延長に焦点を絞って、回収後の正常性改善のための検討を進める。具体的には細胞膜への各種保護物質の効果を検証すると共に、細胞質における浸透圧的変化をモニターしながら脱水と吸水のバランスを改善することで成績の安定化に繋がると考える。特に凍結精子の保存には、従来から化学的組成の不明なskim milkの成分が効果的に働くと考えられているが、初年度の研究により蛋白質成分の調整が新しい凍結保護液の開発に重要であると推測されたことから、各蛋白成分の有無による効果の解析を進める予定である。更に寒剤の利用による輸送条件の検討を行い、実際に輸送実験を国内および国外の施設と進める。 2.新鮮胚および新鮮精子の保管条件の検討:当初の研究計画の通り、新鮮胚および新鮮精子の0~40℃での保管条件の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験用動物(マウス)の購入を考えていたが、1匹あたりの単価が約2000円であり、4-5匹しか購入できないことから、次年度に改めて実験を組むことを考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の実験用動物(マウス)購入費に、加えた予算で実験を進めたいと考えている。
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