平成27-28年度に、マウス受精卵と精子の冷凍温度域(-70℃~-20℃)での保存方法について検討を重ねてきた。細胞内の氷晶形成および保存液による毒性を最小限に抑制する事で、1日程度の国内輸送であれば可能と考えられる条件を設定できた。一方で平成28年度より冷蔵温度での受精卵と精子の長期保存法の検討を以下のように進めた。 1.受精卵:特許取得の可能性があり詳細は公開できないが、修正KSOM培養液を用い、幾つかの環境要因を改善することで7日間の冷蔵温度での保存が可能となった。従来は2~3日の保存でも発生能の低下がみられたが、本実験ではガラス化保存-回収胚を7日間冷蔵保存しても生存率86%、胚盤胞への発生率47%と格段に安定した方法を開発できた。更に輸送実験後に回収した胚から産子への発生能を確認できた。 2.精子:精巣上体組織を様々な液体中で冷蔵保存し、精子活性の比較を行った。3日間の冷蔵テストでは組織冷蔵保存液にエチレングリコールを10%混合した溶液で最も生存精子率が高く、体外受精により58%と高い受精率が得られた。また、精子の凍結保存に対する感受性が大きく異なるC57BL/6JとDBA/2J系統およびそれらの交雑系統を用いて、量的形質遺伝子座解析により、凍結保存に関わるゲノム領域を推定することができた。更に精巣での発現の有無および2系統間でのアミノ酸配列に多型が認められたことから、Abl2とNlrp3を候補遺伝子として検出できた。 これらの技術や知見はマウスのみならず、家畜やヒトおよび細胞への外挿、緊急災害時やフィールドワークおよび発展途上の国々など液体窒素やドライアイスが入手困難な状況でも応用可能と考えられ、様々な用途に発展する可能性を有する。
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