研究課題/領域番号 |
15K06819
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
松田 剛 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 高度先進医療研究室, 研究員 (60392130)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トランスレーショナルリサーチ / ウイルス / 感染症 / 癌 / ゲノム |
研究実績の概要 |
Epstein-Barrウイルス(EBV)はバーキットリンパ腫、慢性活動性EBV感染症(CAEBV)、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)など様々な腫瘍性疾患に関与する。EBVには特効薬はなく、CAEBVの治療は造血幹細胞を移植する以外に有効な手立てがない。今後の再生医療による移植の安全性を確保するためにも早急に抗ウイルス薬や新規治療法の開発が望まれる。本研究は臨床応用を想定し、EBVエピゾーマルベクターを利用したウイルスゲノム切断および単純ヘルペスウイルス(HSV)TK遺伝子による新規治療法の開発を目指し、マウス内でEBV関連疾患の治療を試みる。 平成27年度は、1、EBV感染細胞内でEBNA1切断によるウイルスゲノムへの影響、2、EBV疾患モデルマウス内でウイルスゲノム切断による治療効果の検証を実験計画としていた。 今年度は、CRISPR/Cas9システムによるEBNA1を切断可能なEBV複製起点oriPを有するエピゾーマルベクターを作製した。EBNA1標的配列を切断すると蛍光タンパク質AcGFPが発現するベクターと共に293FT細胞にtransfectionし、切断効率を確認した。標的配列を含まないコントロールベクターでは非特異的な切断は起こらなかった。しかし、テトラサイクリンによる誘導がなくてもEBNA1を切断し、AcGFPの蛍光が観察された。Cas9のリークを抑制するためにProteo Tuner Shield システムを利用し、リークしたCas9が分解されるようにした。Shieldの添加によってよりCas9の分解をおさえ、Shieldの除去によりCas9を安定化することでEBNA1の切断制御が可能となった。現在、EBV疾患モデルマウスでの治療効果の検証に必要な細胞株を作製中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの計画で1、EBV感染細胞内でEBNA1切断によるウイルスゲノムへの影響を調べることは、CRISPR/Cas9システムによるEBNA1を切断可能なEBV複製起点oriPを有するエピゾーマルベクターを作製した。しかし、テトラサイクリンによる誘導がなくてもEBNA1が切断されたため、Cas9のリークを抑制するためにProteo Tuner Shield システムを利用し、リークしたCas9が分解されるように工夫した。Shieldの添加によってよりCas9の分解をおさえ、Shieldの除去によりCas9を安定化することでEBNA1の切断制御が可能となった。 細胞株を樹立するためにtransfection効率が重要であることがわかった。transfection効率が悪いと、遺伝子導入されていない細胞が薬剤耐性を持たないため死滅し、細胞密度がうすくなり、細胞が効率よく増殖していかないことが分かった。現在、細胞株作製の条件を検討中である。 2、EBV疾患モデルマウス内でウイルスゲノム切断による治療効果の検証は細胞株作製途上のため検証できなかった。しかし、EBV疾患モデルマウスの系は既に確立しているので、細胞株が出来次第取り組む予定である。次年度で行うエクソソームに封入し、遺伝子導入する予定の蛍光タンパク質Crimsonの検証を行った。Crimsonを発現する培養細胞は十分検出可能であったが、マウスで感染細胞の検出に用いるには検出波長領域がマウスの皮膚をバックとして検出するため、マウスでのモニタリングには不向きだということが分かった。別の蛍光タンパク質の使用あるいは発光による検出系を考えなければならないことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は今年度、昨年度の続きである1、(1)エピゾーマルベクターの作製、(2)Crispr/Cas9システムによるEBV感染細胞株作製を試み、2、EBV疾患モデルマウス内でウイルスゲノム切断による治療効果の検証を行う。昨年度、マウス内でのEBV感染細胞の検出にCrimsonが不適切であることが分かったため、別の蛍光タンパク質の利用あるいは発光などを利用した検出を考慮したエピゾーマルベクターを作製する必要がある。検出が難しい場合は、イメージングによる治療効果の検証は行わず、マウスの生存日数やEBVDNAコピー数の増減による治療効果の検証を優先する。 3、EBV感染細胞内でTK遺伝子による感染細胞の細胞死誘導のため、(1)HSV由来TK遺伝子発現エピゾーマルベクターの作製、(2)EBV感染細胞株の作製、(3)ガンシクロビルによる細胞死誘導の確認、4、EBV疾患モデルマウス内でTK遺伝子による治療効果の検証のため、(1)NOGマウスに細胞株を移植しガンシクロビルあるいはPBSを静注する。(2)治療効果の検証を行う。 5、エクソソームへのDNA導入系の確立、(1)臍帯血から樹状細胞を分化誘導し、(2)蛍光タンパク質発現ベクターをエクソソームに導入する系を確立する、(3)細胞あるいはマウスに導入する予定である。エクソソームが遺伝子導入に効率的でない場合はハイドロダイナミック法を試す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、EBNA1切断制御可能なEBV感染細胞株の作製が完成せず、マウスの実験まで至らなかったため次年度使用額が生じた。旅費およびその他として、論文投稿あるいは学会(国際学会含む)で研究成果発表するための費用を計上していたが、研究途上のため当該年度の発表を見送り、情報収集のため国内学会への参加だけとしたので次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として、前年度分はEBNA1切断制御可能なEBV感染細胞株作製とマウスの実験に充てる。今年度分の物品費および前年度分の旅費およびその他の費用はTK遺伝子を応用した細胞株作製とマウスの実験及びエクソソームの作製のための費用に充てる。特にエクソソームに遺伝子導入する技術開発は、効率的な系が確立されていない為、費用がかかると考えられる。今年度分の旅費およびその他の費用は、論文投稿及び学会での成果発表に充てる。
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