研究課題/領域番号 |
15K06823
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山下 年晴 筑波大学, 医学医療系, 助教 (50400677)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 血管新生 / 低酸素応答 / がん |
研究実績の概要 |
神経膠芽腫(グリオブラストーマ: GBM)は予後が非常に悪いことが知られている,これは主に高い増殖性と浸潤性によるものである.増殖や浸潤といった現象にはがん細胞をとりまく微小環境が重要であることが指摘されている.特に血管内皮細胞はがん微小環境を構成する要素のなかで最も重要である.腫瘍血管内皮細胞には腫瘍血管内皮細胞は正常血管とは性質が大きく異なりがんの浸潤や増殖を支持する役割を担っていると考えられる.この血管内皮細胞が既存の血管からの新生だけでなく,腫瘍細胞から形質転換し血管内皮細胞や周皮細胞としてがん微小環境を構築していることが近年注目されている.我々はこの細胞の性質を解析することによってGBMに対するこれまでにない効率的な新しい分子標的を見いだすことを目的として,この細胞の形質転換の分子機構,由来となる細胞の解析を実施する.特に腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と性質が異なることが知られている.近年さらにGBM細胞から血管内皮細胞や周皮細胞が分化してくるという報告がなされており,その機能解析が重要実を帯びている.そこで本研究にて手術検体であるGBM原発腫瘍より単離した血管内皮細胞における関連因子発現を解析したところ,SDF-1の発現が亢進していることが分かった,通常この因子は正常血管では発現しておらず腫瘍血管特異的な特長である.この因子は低酸素応答性の因子であることから,血管の形質転換には低酸素が関与している事が示唆された.そこで我々は低酸素刺激と血管内皮細胞および種皮細胞の形質転換の関連を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題遂行により,GBM微小環境を構築する腫瘍血管の性質を知ることが可能となる.これは今まで外科的手術や既存の抗VEGF抗体製剤などの抗がん剤では限界であったGBMに対する治療に関して新しい知見を得ることが出来ると考えている.がん微小環境を対象とした分子標的治療法の改善およびGBMの予後不良において,最も大きな課題である浸潤に対して新しいモデルが提唱できると見込まれる.つまりGBMの浸潤には,腫瘍細胞だけでなく腫瘍血管内皮細胞や周皮細胞も積極的に関与しているという考え方である.この時に作用する血管内皮細胞の機能は前述のように正常血管内皮細胞や血管内皮前駆細胞とは異なった性質を有している.そこで我々は腫瘍血管内皮細胞がどのようなメカニズムで発生するのか,そしてその機能はどのように異なり,どのように作用するのかを明らかにする.具体的には以下の研究計画・方法に従って遂行する.これまでに予備的な実験により,初代培養ヒトGBM細胞をマトリジェルと共に免疫不全マウスの皮下に移植し形成させた腫瘍において,移植したヒトGBM細胞から血管内皮細胞の性質を有する細胞が出現することが認められた.さらに前述のように微小環境を構築する腫瘍血管内皮細胞において低酸素応答性のサイトカインであるSDF-1の発現が亢進していることが確認でき,このことが腫瘍の浸潤や増殖を促進している事が示唆された.
|
今後の研究の推進方策 |
GBMがどのようにして血管内皮細胞や周皮細胞としての性質を獲得するのか,その機構を明らかにするために,その条件を詳細に探ると共に関与する因子をスクリーニングする.これまでにSDF-1の発現亢進が確認されているが,これだけで説明できるわけでないため,その他の関連因子に関してもスクリーニングを行う,また形質転換をおこして血管内皮細胞様の性質を獲得した細胞機能が元になった腫瘍細胞と元から血管であった腫瘍内の血管内皮細胞とどのような違いを有するのか検証する.そのために共培養,細胞生物学的解析,分子生物学的解析を行にて解析を行う.この解析によって,最新の治療法でもってしても治療効果が得られにくいGBMに対して,新しい治療標的を提案することが出来ると考えている.またGBM転移とは関連があまりないが,がん微小環境は転移にも大きな相関性をもっており,他のがん種においても応用出来る.この現象を明らかにすることは医療技術の発展に大いに貢献できることであると考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験内容を前後させたため,物品購入時期がずれたため.ただし全体の計画の流れには影響しない.
|
次年度使用額の使用計画 |
予定した実験がずれ込んだため,当該実験に用いる消耗品類を購入する予定である(物品費).
|