研究課題/領域番号 |
15K06829
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂本 毅治 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70511418)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん |
研究実績の概要 |
がんの足場非依存性細胞増殖に関わる解糖系制御分子XのKOマウスを作製したところ、不妊であることが明らかとなった。そこで生殖器官について解析を行ったところ、分子X KOマウスのオスでは、精巣重量が野生型の6割程度に低下していた。また、分子X KOマウスのメスでは、卵巣には明らかな組織学的な異常は見られなかったが、子宮の組織構造の異常が観察された。また、野生型オスマウスと分子Xメスマウスと交配した結果、妊娠早期の分子Xメスマウスの子宮において、胎児そのものは観察されたが、多くが脱落しており、子宮の機能低下が不妊の原因のひとつと考えられた。生殖器官の異常の原因として、視床下部から下垂体への刺激がうまくいっていない可能性を考え、神経細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するNes-Creマウスと分子X floxマウスとを交配したが、これらのマウスは不妊にならなかった。このことから、視床下部での異常の可能性は低いと考えられた。 続いて、分子X floxedマウスとEsr-Creマウスを交配させ、分子Xの誘導型KOマウスにマウス肺癌LLC細胞を移植した。その結果、コントロールマウスに比べて腫瘍増殖が抑制される傾向が得られたが、まだサンプル数が少なく統計的な差が得られていないため、現在マウスの数を増やして同実験を継続している。 また膵癌マウスモデルにおいて、膵臓特異的分子X KOの影響を病理組織学的に解析した。その結果、分子XのKOにより、少なくとも生後2週間の時点で、膵臓の大部分が癌化していた。一方、コントロールマウスでは一部癌化した部位が見られたが、正常な構造が多く保たれていた。腫瘍部位の組織型については分子X KOマウスで大きな違いは見られなかった。このことから、分子Xは膵癌モデルにおいて、癌化の時期を抑制する役割があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H27年度にマウスの交配に遅れが生じたため、また、分子Xのノックアウトマウスが不妊という予想外の結果が得られたため、当初の予定より研究の進展がやや遅れている。しかしながら、マウスの繁殖が順調に動きだしたこと、分子X欠損の不妊メカニズムについての研究が展開し始めたことなど、最終的には期限内で十分な成果が得られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
分子X欠損による生殖器官形成異常のメカニズムの解明のため、下垂体の組織化学的解析および性ホルモンレベルの解析を行う。表現型の原因臓器が解明し次第、分子Xの制御分子の発現を生化学的に解析する。がんモデルにおいては、がん間質細胞における分子Xの役割については、さらに移植に用いる細胞の種類を増やし、ゼノグラフトモデルでの腫瘍増殖、転移について解析を進める。膵癌モデルでの解析について、経時的に回収した腫瘍組織における分子Xの制御分子の発現を組織化学的・生化学的に解析する。ヒト検体の解析については、膵癌モデルで当初の予想と逆の結果が得られたことから、データベースを用いた詳細な解析を行い、マウスで得られた実験結果と同様の傾向が見られるかについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度のノックアウトマウスの作製に予想以上に時間がかかり、それに伴いH28年度で解析する予定の研究項目の一部が次年度に回ったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
分子Xについて膵癌モデルマウスでのメカニズムのさらなる解明のための実験、およびがん間質における分子Xの機能に関する研究費に使用する。また、今年度の研究から、分子X欠損により精巣、子宮の形成に異常が生じるという表現型が得られたので、解糖系機能と関わるかという観点からメカニズムの解明をするための実験に研究費を使用する。
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