研究課題
がんの足場非依存性増殖に関わる分子について、昨年度に引き続きがん細胞およびがん間質細胞でのがん悪性化に関する役割を個体レベルで解析を行った。がん間質に関する解析として、野生型およびノックアウトマウスにマウス肺癌LLC細胞、マウスメラノーマB16F10細胞の皮下移植を行った。その結果、LLC細胞、B16F10細胞の両者において、ノックアウトマウスでは野生型に比べ腫瘍の増殖が抑制されていた。組織学解析の結果、がん細胞の形態には大きな違いは見られなかったが、ノックアウトマウスでは血管新生が低下しており、これが腫瘍増殖低下の原因のひとつである可能性が示唆された。がん細胞について、前年度に引き続き乳がんモデルMMTV-PyMTマウスとノックアウトマウスとの交配を進め、MMTV-PyMT発現ノックアウトマウスの作製が完了した。まだ少数のマウスでの観察になるが、コントロールマウスに比べノックアウトマウスでは乳がん発生の時期に遅延が見られている。現在マウスの個体数を増やしつつ発症の経過を観察している。一方、ノックアウトマウスの生理的表現型としてオスマウスの不妊が明らかとなった。さらなる解析により、標的分子はgerm cellに特異的に発現しており、germ cellを欠失しているW/Wvマウスでは標的分子の精巣内での発現が消失することをウエスタンブロッティングで確認した。また、生後6-10日の初期の精巣では標的分子の発現は低く、性成熟に伴い発現が増加することを確認した。ノックアウトマウスでは精巣重量の低下、精子数の減少、精子奇形率の増加が観察されたが精子生存率については異常が認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初、がんの足場非依存性増殖に関わる分子について、がん細胞およびがん間質細胞でのがん悪性化に関する役割を個体レベルで明らかにするべく研究を開始したが、標的分子がいわゆるがん精巣抗原であるだけでなく、精子形成に重要な役割を果たす分子という予想外の結果が得られてきた。がんでの表現型に比べ、精子形成の表現型の方が顕著であったため、精子形成能の解析の方に重点をおいて解析を進めた。がんの方ではがん間質、特に血管新生と標的分子との関与が示唆されるデータを今年度得ることが出来、また精子形成に関する機能解析についてひと通りのデータを今年度の研究で取得できたため、おおむね順調に進展していると評価した。
限られた研究期間および研究費を有効に活用するため、標的分子の精子形成における機能解析に重点をおいて研究を展開する。これまでにin vivoの表現型については概ねデータを取得できているので、残りの期間でin vitroのメカニズム解析を行い論文にまとめる。具体的には野生型およびノックアウトマウス精巣でのトランスクリプトーム、プロテオーム解析を行い、ノックアウトマウスにおいて精子形成に関わるどのような分子経路に異常があるかを明らかにし、培養実験系での再現およびレスキュー実験を行う予定である。
これまでに得られた内容を元に、論文投稿を行おうとしたが、学会等で研究内容について発表した際に、マウスを用いたより詳細なメカニズムの解析が必要であるとの専門家からの指摘を複数受けた。そのため、個体レベルでのさらなるメカニズムの解析を行いより良い雑誌に研究成果を投稿するため、当初予定していたin vitroの実験からより時間のかかるin vivoの実験に研究の重点を変更したため、次年度使用額が発生した。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/hitogan/index.html