平成28年度までの検討ではtransforming growth factor (TGF)-β刺激をしたスキルス胃がん細胞株におけるSmad2、 Smad3 (Smad2/3)結合部位のデータ、およびマウス移植モデルから得られたこの細胞のSmad2/3結合部位のデータに加え非スキルス胃がん細胞株でのSmad2/3の結合部位データを取得した。RNA-seqデータとの統合解析により得たTGF-β-Smad2/3の標的遺伝子のうち、遺伝子Cの発現は、スキルス胃がん症例と非スキルス胃がん症例で、予後に与える影響が反対であることを見出した。この遺伝子Cに特異的なsiRNAを用いてRNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。 最終年度である平成29年度ではこの遺伝子Cの癌種間での発現量比較と癌の諸形質に対する影響について検討を行った。その結果、この遺伝子の発現は非スキルス胃がん細胞や肺がん・乳がん・大腸がん細胞株などにおいても認められる一方で、スキルス胃がんをはじめ悪性度の高いがんで発現が顕著に抑制されていることが分かった。またこの遺伝子の発現を抑制すると、非スキルス胃がん細胞の運動能が上昇することが明らかになった。この影響はTGF-β刺激によりさらに顕著に認められた。 一方Smad2/3結合部位のモチーフ解析に基づく検討から高悪性度株で選択的に発現してSmad2/3のシグナルを制御する転写制御因子の同定を試みたものの、AP1結合タンパクをはじめこれまで報告してきたSmad2/3のコファクター以外に特徴的なものは見いだせなかったが、スキルス胃がん細胞のRNA-seqでのオントロジー解析の結果からは、スキルス胃がん細胞においてもTGF-βは細胞運動・浸潤能について促進的に働くことが示唆された。また本研究で得たサンプル、データを含む検討で副次的に脳腫瘍における新規遺伝子変異を同定した。
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