研究課題
研究費を申請した2014年10月の時期には、HGC-3とHGC-18というスキルス胃がん由来の腫瘍移植系(PDX)を樹立していた。これらはスキルス胃がん由来であるが、マウス皮下に移植しても、コラーゲン線維に富むスキルス腫瘍は形成しない。そこで、スキルス腫瘍形成には、がん幹細胞とがん関連線維芽細胞(CAF)との相互作用が重要と考え、課題の研究を申請した。2015年7月に、HGC-20という新規のスキルス胃がん由来のPDXを樹立した。この腫瘍はマウス皮下に移植するとコラーゲン線維に富むスキルス腫瘍を形成する。そのため、スキルス腫瘍形成には、CAFは必ずしも必要ではないことが明らかになった。現在は、HGC-3やHGC-18とHGC-20を比較することにより、スキルス胃がんの形成機構を明らかにしようと考えている。2015年1月にオランダの Hans Clevers の研究室から、R-spondin1とWnt3aのconditioned media を用いた、ヒト正常胃上皮幹細胞の培養系が報告された(以下、新培養系)。この新培養系を導入して調べたところ、従来の培養系よりも、胃がん幹細胞がより早く増殖することが示された。そこで2015年9月以降、新培養系を用いて、HGC-3やHGC-18細胞とHGC-20細胞の増殖調節機構を初代培養系で検討している。HGC-20細胞の増殖に及ぼす分子標的薬の作用を調べたところ、胃がんの治療に使われていない分子標的薬の中に、胃がん細胞株の増殖は強く抑制しないのに、HGC-20細胞の増殖を顕著に抑制するものがあることに気がついた。この薬剤はスキルス胃がんの新規治療薬となる可能性がある。今後、これについて、更に解析を進めたい。
1: 当初の計画以上に進展している
当初はがん関連線維芽細胞(CAF)を用いた実験系を計画していたが、HGC-20という新しいPDXを樹立した結果、CAFを用いなくても、スキルス胃がんの形成機構の解析が可能であることが明らかになった。そこで、HGC-20がん幹細胞の増殖調節機構の解析を優先して研究を進めている。その点は、当初の計画通りではない。本研究の最終目的は、スキルス胃がんの新規治療方法の開発である。これまでに、胃がんの治療には使われていない分子標的薬の中に、HGC-20胃がん幹細胞の増殖を特異的に抑制するものがあることを見出した。この研究を進めれば、スキルス胃がんの新規治療方法の開発に繋がる可能性がある。そこで研究計画を変更して、この分子標的薬の作用の解析を優先して進めている。以上のように、方法は計画とは異なるが、最終目的を達することが可能なところに研究は達している。そのため、非常に順調な進捗状況であると考えている。
HGC-20胃がん幹細胞の増殖を特異的に抑制する分子標的薬の作用を更に解析して、それがスキルス胃がんの治療に有用な分子標的薬であるかどうかを検討する。これを優先して研究する。また同時に、当初の計画通り、HGC-3やHGC-18胃がん幹細胞と、がん関連線維芽細胞との相互作用の解析も進める。
実験で使用した試薬の納入価格が、想定していた金額よりも高価であったため。
試薬の納入価格を正確に調査することにより、次年度使用額が生じないようにしたい。
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Int. J. Oncol.
巻: 48 ページ: 657-669
10.3892/ijo.2015.3299