乳癌原因遺伝子BRCA1/2は正常細胞においてゲノムの安定維持に貢献していると考えられる。DNA修復,中心体複製制御業績,さらには細胞質分裂制御業績といった様々な発癌抑制機に係わるBRCAを臨床開発の標的とするには,当分子に留まらず機能特異的相互作用分子を含めたネットワークの解明が必要であった。本研究は画期的手法によって機構毎にBRCA分子内の責任部位と特異的分子間相互作用を明らかにし,発癌抑制機構の分子基盤を明確にすることを目標にした。そのために,I.癌研究にブレークスルーをもたらす新規定量・スクリーニング手法の開発,II.DNA修復と中心体複製制御機能別に特異的な分子間相互作用の解明,III.ゲノム解析との有機的統合によるBRCA点変異の発癌誘導分子基盤の解明,IV.癌診断・治療法開発の標的となる新規マーカーと分子内責任部位の選出,の順に計画的に研究を実施した。計画年度中にBRCA1/2ライブラリ発現系を構築し,従前より大量かつ均一に発現させることができた。各遺伝子内のDNA修復責任部位を決定するため,このライブラリにより相同組換え効率定量系を用いたスクリーニングを開始した。既存の定量系に生細胞染色と多重蛍光フローサイトメトリーを組み合わせた改良を加え,より高い感度で相同組換え効率の差異を明らかにできた。また,悪性度の高いがんの温床になっている,低酸素微小環境へがん細胞が適応する分子機構を調べ,血清飢餓低酸素状態において特異的に発現上昇する遺伝子をスクリーニングした。見出したうち一つの破壊細胞株のゼノグラフト形成能は大きく低下したことから,この遺伝子ががんの悪性化機序に重要な役割を果たすと考えられた。この遺伝子に因る微小環境におけるDNA修復能への関与について検討したい。
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