研究課題
本研究は幹細胞老化と個体老化のエピジェネティック制御機構の解明を目指し、クロマチンリモデリング因子CHD8による幹細胞老化制御メカニズムの全貌を解明すると共に、神経変性疾患やがんなどの加齢関連疾患にこのシステムがどのように関与しているのかを明らかにすることを目的としている。最近、自閉症スペクトラム障害の最も有力な原因候補遺伝子としてこのCHD8が同定され、世界中で大きな反響を呼んでいるが、われわれはヒト自閉症患者のCHD8変異を再現したモデルマウスを作製し行動解析を行ったところ、このマウスが自閉症様の行動異常を再現することを確認した[Katayama et al., Nature 537: 675-679 (2016)]。この自閉症モデルマウスを用いて、自閉症が発症するメカニズムをトランスオミクス解析によって調べたところ、遺伝子変異によってCHD8の発現量が減少すると神経発生に重要な制御因子であるRESTが異常に活性化され、その結果として神経の発生遅延が起こることがわかった。さらに、われわれは各種の組織幹細胞(神経、間葉系、造血)特異的CHD8ノックアウトマウスを作製したところ、各組織における著しい分化異常を来すことが明らかとなった。特に、CHD8を欠損した造血幹細胞は、老齢マウスの造血幹細胞と類似した異常な増加が観察され、骨髄移植実験における骨髄再構築能力が著しく障害されていた。われわれは今までに、CHD8ががん抑制タンパク質p53を抑制することを発見しているが、造血幹細胞においてCHD8/p53ダブルノックアウトマウスを作製すると、上記の造血幹細胞の異常な増加が顕著に抑えられ、骨髄移植実験における骨髄再構築能が回復することがわかった。これらの結果から、CHD8は幹細胞の機能維持において重要であり、CHD8-p53系が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
われわれはヒト自閉症患者のCHD8変異を再現したCHD8ヘテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、このマウスが自閉症様の行動異常を再現することが明らかとなった [Katayama et al., Nature 537: 675-679 (2016)]。また、われわれは各種の組織幹細胞(神経、間葉系、造血)特異的CHD8ノックアウトマウスを作製し、CHD8が幹細胞の機能維持において重要であり、CHD8-p53系が重要な役割を担っていることを明らかにした。これらの知見は当初の研究目的に適っており、順調に達成されつつあると考えられる。
各種の組織幹細胞特異的CHD8ノックアウトマウスの解析を進めるとともに、CHD8トランスジェニックマウスが個体老化を抑制するかどうかを検証していく。プロテオーム、ChIP-SeqおよびRNA-Seq解析によって、幹細胞におけるCHD8の標的遺伝子を網羅的に探索することにより、CHD8による幹細胞老化の制御機構を解明する。またCHD8のプロモーター領域を解析し、遺伝子発現に影響を与えるシス領域を決定すると共に、そこに結合するトランス因子を同定する。さらに様々な発現レベルの発現誘導型トランスジェニックマウスを用いて、種々の組織幹細胞にCHD8を発現誘導し、幹細胞老化に与える影響を調べる。最終的には、がんを起こさずに個体老化を抑制する発現レベルを決定する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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