膠芽腫は成人脳腫瘍の中で最も罹患率が高い、極めて予後不良な悪性腫瘍である。本研究は、膠芽腫幹細胞におけるR-spondin-LGR5-APC軸によるWntシグナル活性化の分子機構を明らかにすることにより、膠芽腫幹細胞および微小環境との相互作用を標的とした新規脳腫瘍根絶技術の開発を目指す。 R-spondin-LGR5-APC軸の分子機構を解析するために、LGR5の相互作用因子を調べた結果、Wntシグナルの主たる制御因子であるβ-catenin分解複合体との相互作用を見出した。さらに、R-spondin/Wnt刺激により、LGR5複合体からAxin1が解離することを明らかにした。疑似リン酸化変異体を用いた実験から、Axin1 160番目のスレオニン残基のリン酸化修飾が、Axin1-APC相互作用の解離を促進していることを見出した。 Axin1 T160A非リン酸化変異体マウスからWntシグナル抑制状態の表現型を、Axin1 T160D疑似リン酸化変異体マウスからWntシグナル亢進状態の表現型を見出すことができる。しかし、Axin1 T160A非リン酸化変異体マウスは正常に発生し、見かけ上明らかな表現型は見出されなかった。 近年、悪性腫瘍に対する免疫療法が有望視されている。悪性黒色腫においてはWntシグナル活性化が腫瘍細胞の免疫逃避を促進することが知られているが、膠芽腫のWntシグナルと免疫逃避の関連性は明らかにされていない。 Axin1 T160点変異導入ノックインマウスと膠芽腫モデルマウスとを掛け合わせることにより、膠芽腫幹細胞におけるR-spondin-LGR5-APC軸の治療標的としての有効性を評価する。さらに、Wntシグナルと免疫逃避との関連性を解析し、膠芽腫に対する免疫療法の有効性を検討する。
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