研究課題
前年度で見出したマウスリンパ腫細胞におけるFas発現の制御機構に関して検討を行った。まず発現抑制がプロモーター領域におけるエピジェネティックな修飾によって制御されているのか明らかにするため、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及びDNAメチル基転移酵素阻害剤の処理を行った。その結果、どちらの阻害剤においてもFas発現抑制の解除が見られないことが分かり、エピジェネティックな制御は受けていないことが分かった。次にCD40シグナルの活性化によるFas発現再増加にどのようなシグナル経路が関与しているのか、阻害剤を用いて検討を行った。その結果、NFkB、MAPK、PI3K阻害剤によってFas発現の抑制が見られたが、Jak3阻害剤では見られず、NFkB、PI3K、MAPKと3経路のシグナル経路を介していることを明らかにした。ヒトリンパ腫細胞株においてもマウスリンパ腫と同様、CD40シグナルの活性化によりFas発現が回復することを前年度に見出しているが、FasL処理後にアポトーシスが誘導される細胞株はおよそ半数であった。一方、もう半数の細胞株ではFas発現が回復するにも関わらず、アポトーシスに抵抗性を示すことが分かった。これらの細胞株ではFasの変異は見られなかったため、アポトーシスに拮抗する分子の発現を網羅的に調べた。その結果、抵抗性株において共通してIAP familyの一つであるLivinの発現が亢進していることを見出した。そこでLivin低発現の細胞株へLivinを導入すると有意にFasによるアポトーシスが抑制され、逆にLivin高発現の細胞株へshRNAでLivinの発現抑制を行うと有意にアポトーシスが増加することを見出した。これらの結果からヒトリンパ腫においてはFasによるアポトーシスの抑制にLivinが強く関与することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度ではマウスモデル及びヒトリンパ腫細胞株を用いて、リンパ腫の発症における腫瘍免疫回避機構としてFasの発現低下ならびにFas発現回復によるアポトーシスへの耐性責任分子としてLivinを同定した。実際にLivinをshRNAにより発現抑制するとFas発現時のアポトーシスが有意に増加することからLivinを標的とした新規治療法の開発へと応用が期待できる。以上によりおおむね順調に解析が進んでいると考えられる。
Livinを標的とした薬剤の開発、予後との関連を調べることで実際のリンパ腫の新規治療薬や診断マーカーとしての検討を行う。Livin発現の上流シグナル経路を同定することでより詳細なLivin発現制御の分子機構を明らかにしていく。また、マクロファージなどの免疫細胞が発現するCD11b陽性細胞を特異的に欠損するマウスへリンパ腫細胞を移植したところ、リンパ腫の発症が遅延する傾向がある予備的な結果を得ている。今後さらに検討を重ねることで免疫細胞、特にマクロファージなどの免疫細胞がリンパ腫の発症、抑制にどのように関与するのか、そしてどのような因子が関わってくるのか検討を行う予定である。
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