研究課題
本研究の目的は、「正常な間質細胞」と「がん間質」が産生するエクソソームとを比較し、「腫瘍発生を抑制する正常間質由来エクソソーム」および「腫瘍進展を促進するがん間質由来エクソソーム」を同定することとし、これらの間質由来エクソソームを用いた新規のエクソソーム治療開発を目指す。初年度であるH27年度においては、これまで蓄積したエクソソーム解析技術(エクソソーム抽出、エクソソーム量の測定、エクソソーム内因子(miRNA)の解析)を生かし、研究計画に沿いながら健常人由来骨髄間質細胞と多発性骨髄腫(Multiple Myeloma: MM)患者由来骨髄間質細胞を培養し、それらの細胞が放出するエクソソームを回収するとともに、エクソソーム分画からRNAを抽出、TaqMan PCRアレイを用いてexosomal miRNAの半網羅的解析を行った。特に、健常人由来骨髄間質細胞は、ドナー年齢の異なる(若年者:19才、21才)および高齢者(68才、72才)由来の細胞をLONZA社から購入して比較を行った。その結果、健常人骨髄間質細胞においてドナー年齢の違いによって骨髄間質細胞が放出するエクソソーム内のmiRNAのプロファイリングが異なることを明らかにした。また、これら健常人由来骨髄間質細胞と患者由来骨髄間質細胞が放出するエクソソームを、多発性骨髄腫細胞株(RPMI8226, KMS-11)の培養系に添加すると、腫瘍細胞の増殖への影響が異なることも明らかとなり、エクソソーム内因子がこの腫瘍細胞の増殖制御に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度において、健常人由来骨髄間質細胞と骨髄腫患者由来間質細胞の細胞生物学的な比較、それぞれの骨髄間質細胞が放出するエクソソームの量および質的比較、さらにそれらのエクソソームのin vivo(マウスモデル)での機能解析を計画していたが、間質細胞の培養系、解析系、およびエクソソームの質的、量的解析はすでに当研究室で確立されていたため、計画通りに進行することが可能であった。ヌードマウスを用いたin vivo機能解析系の確立はスムーズに行えたが、研究計画時の予想では健常人由来骨髄間質細胞が放出するエクソソームは腫瘍細胞の増殖を抑制するような防御力の高い効果を示すと考えていたが、現在行っているin vivo解析からの結果では、腫瘍血管新生の抑制を引き金とした腫瘍細胞の増殖制御が引き起こされていることが示唆されるようなデータが得られており、次年度に向けてさらなる解析を進めている。
次年度以降は、初年度に検討する「がん間質の発生機序と加齢の関係性」および「若年者間質由来エクソソームの腫瘍細胞抑制効果」の解析から得られた情報を基盤に、エクソソーム内マイクロRNAをターゲットとしてin vivoモデルを用いた解析を進め、新規のエクソソーム治療への可能性を見出す。特に、健常人由来骨髄間質細胞において、若年者由来骨髄間質細胞が放出するエクソソームに特異的に含有されているmiRNAの同定を行い、これらを人工的に強制発現させた改変型エクソソームを作成し、ヌードマウスを用いたin vivo解析系においてこの改変型エクソソームを用いたエクソソーム治療法の開発に向けて研究を行う予定である。
研究計画では初年度に研究成果を投稿する予定とし、実際に投稿(査読有)に投稿したが、査読に時間がかかってしまったことと、初投稿雑誌にrejectされたことによる再投稿の時間がかかり、研究計画における英文校正費および投稿料に差額が生じたことによる。
次年度繰越金額は5万円以下であり、次年度の研究費の使用計画における消耗品等の計画には影響はない。次年度でも論文投稿を予定しており、英文校正費および論文投稿費がかかると予想され、次年度繰越となった金額については論文投稿関連に補充する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件) 備考 (1件)
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http://team.tokyo-med.ac.jp/ims_onc/index.html