がん進展に伴い、がん周辺部には炎症に惹起されたがん微小環境が形成され、悪性化に関与することが示唆されている。また、がんが転移する前の段階において、将来の転移先となる遠隔臓器に転移前微小環境が形成される。本研究では、将来的に転移性がんに対する新たな治療戦略の展開を目指し、肝転移における転移前微小環境形成因子による転移促進の分子機序を解明することを目的とし、前年度の実験結果をもとに、本年度、次の1.~3.の検証を行った。 1. 現在までに、転移前肺微小環境形成因子として同定したS100A8はTLR4内因性リガンドとして機能し、TLR4依存的に骨髄からの骨髄由来抑制性細胞の動員を誘導することを見いだしてきたが、肝転移にも関与するかは不明であった。予備実験により、転移前肝臓においてもS100A8の発現誘導が認められたことから、昨年度作製したS100A8中和抗体を大腸がん肝転移モデルマウスに投与し、肝臓への転移数を検証したところ、S100A8中和抗体は肝転移を顕著に抑制した。よって、S100A8は転移先に依存せず骨髄由来細胞の動員を誘導し、転移促進する働きを持つことを示唆した。 2. 転移前の段階での肝臓において、骨髄から動員される細胞集団を数種の細胞特異的表面マーカー抗体にて染色後、セルソーターにより細胞集団を分取した。分取した細胞に転移前肝微小環境形成因子刺激による発現プロファイルを解析した。さらに、転移前肝微小環境形成因子欠失マウス、転移前肝微小環境形成因子受容体欠失マウスにがん細胞を移植し、一定期間後の腫瘍のサイズや転移数を解析し、転移前肝微小環境形成因子の転移促進能を検証した。 3. ヒト臨床検体を用いて、転移前肝微小環境形成因子の発現とステージに関連があるかを検証した。
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