研究課題/領域番号 |
15K06843
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
安部 良 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (20159453)
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研究分担者 |
小幡 裕希 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (20609408)
若松 英 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (40632617)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 腫瘍化 / c-Kit / Akt / STAT5 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、サイトカイン環境の変化に応じて段階的に腫瘍化するユニークなマスト細胞株を用いることで腫瘍化プロセス・無限増殖のメカニズムを明らかにすることである。最近、申請者は新規に樹立したマスト細胞株を様々なサイトカイン環境で培養することで自律増殖性・腫瘍原性を誘導できるコンディションを見出し、腫瘍化プロセスのイベントを段階的にモニターできるシステムを構築した。さらに、腫瘍化したマスト細胞において、Kitの活性化変異体がエンドリソソーム・小胞体を起点としたがん化シグナリングを起こすことを明らかにした (Obata et al., 2014, Nature Communications)。そこで、マスト細胞の腫瘍化プロセスにおける 「遺伝子変異・発現」, 「蛋白質の翻訳後修飾」, 「シグナル分子の細胞内分布」 の変化の解析を試みることで、細胞のがん化メカニズムの正確な理解を目指す。 本年度は、正常なマスト細胞株から、複数の腫瘍化マスト細胞株を誘導し、これら細胞株のマイクロアレイ法によるトランスクリプトーム解析, ウェスタンブロッティングによる生化学的解析, 共焦点顕微鏡によるイメージングの基礎検討をおこなった。誘導したマスト細胞腫には、c-Kitの恒常的活性化変異を持つものと持たないものを見出した。また、それぞれのマスト細胞腫におけるc-Kitの糖鎖修飾の違いについても明らかにした。全てのマスト細胞腫に共通した特徴として、Akt, STAT5の活性化の指標であるリン酸化が強く認められた。一方で、Erkの活性化はほとんど見られなかった。今後は、誘導過程の細胞の解析をおこない、どの段階で腫瘍化に重要な変化が生じるのかについて取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、正常なマスト細胞株から、培養液中のサイトカイン濃度を段階的に減少させることにより、複数の腫瘍化マスト細胞株を誘導し、これら細胞株のトランスクリプトーム解析 (マイクロアレイ法), 生化学的解析 (ウェスタンブロッティング), イメージング (共焦点顕微鏡) の基礎検討をおこなった。誘導したマスト細胞腫には、c-Kitの恒常的活性化変異を持つもの (4種) と持たないもの (2種) を見出した。これら細胞株をマウスに接種したところ、c-Kit変異を持たない細胞株は非常に転移能が強く、悪性度が高かった。それぞれのマスト細胞腫におけるc-Kitの糖鎖修飾は異なり、幾つかのマスト細胞腫では、c-Kitの小胞体-エンドソームなどの細胞内小器官へ蓄積していた。全てのマスト細胞腫に共通した特徴として、Akt, STAT5の活性化の指標であるリン酸化が強く認められ、細胞増殖は完全にそれらの活性化に依存していた。一方、マスト細胞腫ではErkのリン酸化はほとんど見られず、Erk阻害剤U0126は増殖に影響を与えなかった。誘導したマスト細胞腫のc-Kit変異・細胞内局在, 糖鎖修飾, シグナル伝達分子の活性化の特徴を理解できたことで、大部分の基礎検討を完了することができた。そのため、現在までの進捗状況はおおむね順調に進んでいるとした。今後は、腫瘍の誘導過程の細胞の解析をおこない、どの段階で腫瘍化に重要な変化が生じるのかについて取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
低濃度のサイトカインで培養できる細胞株と、中程度または高濃度のサイトカインで培養する細胞株を比較することで、腫瘍化プロセスにおけるシグナル分子の活性化のモニターをおこなう。また、その時の遺伝子発現変化を調べる。さらに、各段階における細胞内分子の局在変化についての解析おこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学実験に用いる抗体について、昨年度内に選定できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
実験結果に基づいて選定した抗体を2~3種類を購入する。
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