研究課題
複数のマスト細胞株におけるシグナル伝達の解析をおこなった。本年度は、完全に自律増殖能を獲得した細胞株におけるチロシンリン酸化シグナルおよびシグナル分子の細胞内局在を明らかにした。Kitチロシンキナーゼに変異を持つ細胞株3種については、Kitによるチロシンリン酸化シグナルに依存した増殖が認められたが、野生型Kitを発現する細胞株はKit非依存的な増殖を示した。このKit非依存的な増殖機構には、変異レセプターによるチロシンリン酸化シグナルを代替するメカニズムが存在することが示唆される。さらに、Kit変異体は細胞内のオルガネラに蓄積し、野生型Kitは細胞膜に分布していることを明らかにした。また、Kit変異を持つマスト細胞腫においてはKitが異常局在をしており、そこのみで増殖シグナルを発信していることを見出した。この異常局在は、細胞内輸送阻害剤であるブレフェルジンAやM-COPA (メチルコフィリナミド) で減少させることができ、それにより増殖シグナルの抑制が認められた (Hara et al., 2018, Plos One)。M-COAPは、マウスにおける担がんモデルで抗腫瘍効果を持つことが示唆されており、マスト細胞腫の治療法の一つとして期待される。
2: おおむね順調に進展している
複数のマスト細胞腫瘍株における実験を実施し、この疾患のシグナル伝達についての全体像が明らかになりつつある。また、変異型Kitは細胞膜ではなくオルガネラに集積していたので、その異常局在を標的とした治療法構築もおこなっている (Hara et al., 2017, Plos One)。さらに、Kit変異体が原因の他のがんである消化管間質細胞腫についても同様の解析をおこない、Kitのオルガネラでのシグナル伝達機構を明らかにし、論文発表をおこなった (Obata et al., 2017, Oncogene)。
完全に自律増殖能を獲得する前段階の細胞株の解析をおこない、どのようなメカニズムの破綻によって無限増殖能を獲得するのかを解析する。また、野生型Kitを発現するマスト細胞株における増殖シグナルのトリガーとなる因子を明らかにする。Kitが原因の他のがん (消化管間質細胞腫, メラノーマ, 急性骨髄性白血病) についても解析を進める。
オルガネラを染色するための抗体および化合物を購入し、複数のマスト細胞腫瘍株におけるオルガネラ配置の違いについて調べる予定だったが、論文のリビジョンなどが複数重なり、実施できなかった。
小胞体, ゴルジ体, エンドソームを染色するための抗体および化合物を購入し、全てのマスト細胞株を染色する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Oncogene
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