研究実績の概要 |
がん組織における遺伝子変異は、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に代表されるがんの発生、進化に直接重要な役割を持つドライバー変異と、がん組織のゲノム不安定性によりランダムに入ると考えられるパッセンジャー変異に分類される。既知ドライバー遺伝子の多くはタンパク質リン酸化に関係する遺伝子である。しかし、その基質であるリン酸化サイトに入る変異はがん化への影響を持つことが予想されるものの、その細胞がん化への影響は、多くがパッセンジャー変異と考えられており、いまだ明らかにされていない。本研究で我々は、リン酸化モチーフに注目し、ヒトがん組織におけるリン酸化サイト上のがん特異的変異を分類することで、リン酸化モチーフ上の遺伝子変異の持つ細胞がん化への影響予測を試みた。我々は、膨大なリン酸化サイトを簡便に特徴づけるために、リン酸化サイトの周辺アミノ酸配列の特徴からモチーフ構造を抽出し178のリン酸化モチーフに分類した。決定したモチーフは、比較進化解析から進化的保存性を算出した。International Cancer Genome Consortium (ICGC)に登録されている16,164,044のがん特異的変異から、アミノ酸置換のあるリン酸化モチーフ上の114,262変異をピックアップし、がん組織でのモチーフへの変異の偏りと各リン酸化モチーフの進化的保存性との間で相関を調べた。この結果、リン酸化モチーフ上のがん特異的変異導入頻度は、リン酸化モチーフの進化的保存性と正の相関を持つことが明らかになった。これはがん組織では、生理的重要性の高いリン酸化モチーフに変異が蓄積しやすいことを意味し、がん組織のリン酸化モチーフ上の変異は、ゲノム不安定性によるランダムな変異の挿入でなく自然選択的に挿入されていることを示唆した。さらに腫瘍組織の違いによって、変異が導入されるリン酸化モチーフにも偏りが観察された。
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