タンパク質リン酸化は、最もポピュラーな翻訳後修飾で、生命現象や病態に大きな影響を持つことが知られている。近年の質量分析技術の向上は、リン酸化プロテオミクスを発展させ、大規模なリン酸化サイトの同定と、膨大な量のタンパク質リン酸化部位のデータベース化につながった。しかし、これらの膨大なリン酸化サイトの多くは生理的意義が判明しておらず、逆にその数が生理的に意義のあるリン酸化サイトの決定を困難なものにしている。我々は、ヒトゲノム上のリン酸化サイトを周辺配列の構造から、178のリン酸化モチーフに分類したデータを使い、リン酸化モチーフの進化的保存性(Conservation index:CI)がその生理機能への重要性と関係があること見出した。がんにおけるドライバー遺伝子の多くはタンパク質リン酸化に関係する遺伝子であり、その基質であるリン酸化サイトに入る変異はがん化への影響を持つことが期待された。そこでリン酸化モチーフ情報が、疾患シグナルの探索に有効か検証もかねてリン酸化モチーフ情報と、International Cancer Genome Consortium (ICGC)(https://icgc.org/)に登録されたがん特異的変異データを組み合わせてその関係を調べた。がん組織では、生理的重要性の高いリン酸化モチーフに変異が蓄積しやすい傾向がみられ、この結果は、がん組織のリン酸化モチーフ上の変異が、ゲノム不安定性によるランダムな変異の挿入でなく自然選択的に挿入されていることを示唆した。さらにリン酸化モチーフ上のがん突然変異に組織特異性がみられるか確認したところ、皮膚がんで特徴的な変異が観察された。その変異がどのようなタンパク質に導入されているか検証すると、高い機能特異性が分かったことから、その機能における変異の役割を今後明らかにする。
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