研究課題
難治性の血液腫瘍であるATLは、ウイルスHTLV-1の感染から数十年の潜伏期間を経て発症に至る。発症までには、ウイルス由来のがん遺伝子(Tax、HBZ)以外に宿主側のゲノム、エピゲノム異常の蓄積が必要と考えられているが、その実態は充分には明らかにされていない。申請者はこれまで、ATL由来の細胞株、TL-Om1およびST1から、極めて造腫瘍能が高いsub populationを4種、分画することに成功し、そのすべてにおいてAKTシグナルが活性化(T308とS473リン酸化の亢進)していることを見出した。本研究では、高造腫瘍性ATL細胞におけるAKT活性化の機構解明を目指す。今年度は以下を明らかにした。1)高造腫瘍性TL-Om1およびST1においてAKTシグナルの抑制因子であるINPP5Dの発現低下に加え、PTENの発現低下も認められた。2)T308およびS473のリン酸化を担うキナーゼを同定するため、リン酸化への関与が報告されている各種キナーゼに対する阻害剤をATL細胞に投与し、T308およびS473リン酸化への影響を検討した。これまでにAKT阻害剤でリン酸化が低下し、自己リン酸化の可能性が示唆された。3)AKTシグナルのレポーター遺伝子作成のため、AKT下流で発現変動する遺伝子を確認したところ、TRAILがTL-Om1、ST1で共通に変動しており、レポーター遺伝子として最も適していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
高造腫瘍性ATL細胞でのAKTシグナル活性化の分子機構に関して情報が得られた。AKTをリン酸化するキナーゼの同定には至らなかったが、候補を絞ることはできた。また次年度以降に予定しているAKTシグナルに関するレポーター遺伝子作成のための遺伝子候補(INPP5D、PTEN、TRAIL)をピックアップすることができた。
1)AKTの自己リン酸化を明らかにするため、AKTのノックダウンあるいはドミナントネガティブ変異体の導入を行い、影響を検討する。2)INPP5D、PTEN、TRAILのプロモーター領域を単離し、これをもとにレポータ遺伝子を作成しTL-Om1、ST11に導入する。転写活性化に関与するエレメントの導入、および導入細胞集団における活性化の不均一性を検討し、その分子機構解明を目指す。
AKTシグナル抑制因子であるPIK3IP1の機能解析のうち、シグナル抑制性複合体解析を実施できなかったため。
上記シグナル抑制性複合体実証のための免疫沈降実験などに使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Cancer Sci.
巻: ePub ページ: ePub
10.1111/cas.12921.
J Clin Microbiol.
巻: 53 ページ: 587-596
10.1128/JCM.02254-14.