研究課題
難治性で予後不良の血液疾患である成人T細胞白血病は、レトロウイルスHTLV-IのT細胞への感染を契機に発症する。ウイルス由来のがん遺伝子(Tax、HBZ)が発症に重要な役割を果たす一方で、宿主側のゲノム、エピゲノムの変化、さらにはシグナル伝達系の異常なども発症、増悪に関与すると考えられているが、その実態には不明の部分が多く残されている。前年度までに申請者はATL由来の細胞株2種(ST1、TL-Om1)から造腫瘍性が高い細胞を分画し、さらにこの細胞分画で抑制因子INPP5D、PIK3IP、PTENの発現低下によりAKT/FOXOシグナル伝達系が活性化していること、この活性化が造腫瘍性に必須であることを明らかにした。今年度以下の検討を進めた。1)INPP5D、PIK3IPの遺伝子発現低下にDNAメチル化が関与しているか確認するため、メチル化阻害剤(zebularine)で細胞を処理したところINPP5Dの発現に変化はみられなかったが、PIK3IPの発現は上昇し、本遺伝子の発現がメチル化により抑制されていることが示唆された。INPP5Dに関してはさらにbisulfite法でプロモーター領域のメチル化状態を検討したが、メチル化状態と遺伝子発現のレベルに相関は見られなかった。造腫瘍性亢進に伴うこれら遺伝子の発現抑制にDNAメチル化が関与するものと関与しないものの複数の経路があることが示唆された。2)AKTの活性化に重要なT308、S473のリン酸化を担うキナーゼを同定するため、AKTシグナル伝達系活性化に関与する分子(mTORC、ILK)、シグナル伝達系(NF-kB、PKC、src)の阻害剤を投与し、T308、S473のリン酸化レベルを確認したが、試した阻害剤のうちリン酸化に影響を及ぼすものはなかった。
2: おおむね順調に進展している
AKTのT308、S473のリン酸化に影響を及ぼす因子の検討を進めた。リン酸化酵素として、前年度にAKT自身による自己リン酸化の可能性が示唆されており、今年度の検討の結果により間接的にではあるがこの可能性が支持された。またPIK3IPの遺伝子発現低下にDNAメチル化が関与する可能性を示すことができた。
今後以下の解析を進める。1)INPP5D、PIK3IP遺伝子発現に関与する転写因子の同定2)INPP5D、PIK3IP遺伝子のプロモーター領域を組み込んだGFPレポーターベクター(準備中)による遺伝子発現可視化細胞の樹立と、樹立細胞による、細胞集団におけるAKTシグナル制御の「不均一性」の検討およびその要因解析。3)AKT自己リン酸化の証明;精製AKTを用いたin vitro系での活性測定、ドミナントネガティブ変異体(準備中)導入によるリン酸化への影響の評価
所属機関からの補助により、旅費および謝金の支出を抑えることができた。
国際学会における成果発表のための旅費、謝金として一部使用物品費(細胞培養用FBS、各種阻害剤、抗体など)の購入に一部使用
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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