化学発がん物質によって引き起こされるDNA付加体は修復過程で遺伝子変異を引き起こす。我々は、第Ⅲ世代シーケンサーを用いた配列解析において、DNA付加体の存在により伸長反応が遅延することを利用し、DNA付加体の一分子検出を試みた。1塩基のO6-Methyl-2'-deoxyguanosineを持つ二本鎖DNAを作成し、PucBio社RSIIシークエンサーによって解析した結果、伸長反応遅延によって付加体形成部位を検出することが可能であった。しかし、リード別にDNA付加体に対する伸長遅延を解析した結果、遅延率は一定ではなく100倍程度の開きを持って正規分布していた。このようなブロードな遅延はO6-Carboxymethyl-2'-deoxyguanosineを用いた実験でも認められたことから、本方法ではDNA上の付加体検出は可能であるが、その種類を判定することは難しいと考えられた。本方法の検出感度を検討するため、付加体を持つ二重鎖DNA断片を通常のDNAと混合して検出したところ、付加体を持つDNA断片が10%以上含まれていないと検出されないことが分かった。この検出感度の低さの原因は、付加体を持つDNAの解析結果がシークエンス反応の際のカバレッジの低さを主要因として自動排除されているためであった。そこで、各種解析パラメーターをチューニングしたところ、1%前後の混合比であれば解析が可能であることが分かった。次に我々は付加体を持つDNAを濃縮する技術として、DNA断片の免疫沈降を利用する方法を検討した。付加体を持つDNA断片は二重鎖の状態では極めて反応性が低く、一本鎖化が必須であり、二回の濃縮操作を経て約1000倍まで存在比が上昇することが定量的PCR法によって明らかとなったことから、第Ⅲ世代シーケンサーを用いた解析との組み合わせで一分子付加体を検出できることが期待できた。
|