特定の細胞集団を蛍光色素などの標識なしで同定できれば、細胞種・生物種を超えた普遍的な指標としてユニバーサルに利用できると考えられる。本研究では、生体、細胞、タンパク質などが本来持つ物質としての電気的性質(電気物性)を指標にして、幹細胞としての性質を規定する技術の確立を行うことを目的とする。はじめに、培養を介さない状態における幹細胞の性状を調べるため、フローサイトメーターで細胞を純化後、それぞれの細胞種に対する電気物性の計測を行った。CD45抗体、GPA抗体を用いて、正常ヒト骨髄細胞より、ヒト白血球細胞・赤血球細胞をそれぞれ分離した。電気物性測定器における測定値から、細胞膜の比誘電率(Cm)・細胞質導電率(K)・細胞径(d)を算出(逆解析)し、情報をプロットした。その結果、ヒト白血球細胞・赤血球細胞においてさほど大きな違いを得ることはできなかった。一方、ヒト骨髄における間葉系幹(前駆)細胞(LNGFR+THY1+細胞) における電気物性を調べてみたところ、間葉系幹(前駆)細胞と血球系細胞では、細胞膜の比誘電率の違いが確認された。さらに培養前後における電気物性の違いを確認したところ、培養により電気物性は大きく異なることがわかった。特に、培養することで細胞径(d)の値が大きくなり、 その結果細胞膜の比誘電率(Cm)や細胞質の導電率(K)に影響を与えるのではないかと考えられた。マウス骨髄でもヒト骨髄とほぼ同等の結果が得られた。以上の実験により、採取方法・培養方法が同一であることを条件に、細胞種特異的な電気物性が存在し、それら電気物性の違いを測定できることが示唆された。
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