本研究では、グルコース枯渇耐性腎癌細胞株と感受性腎癌細胞株に対する次世代シーケンサーを用いた網羅的な発現解析データと腎癌の臨床試料の網羅的遺伝子発現解析データを活用して、予後予測マーカーの同定と、新規分子標的の発見を目的とした。その結果、以下の知見が得られた。 1)グルコース枯渇耐性腎癌細胞株は、SOD2遺伝子を高発現しており、ミトコンドリア内の活性酸素量が低く効率よく呼吸によるATP産生を行っていることが解った。また、患者の予後とSOD2の遺伝子発現とに強い相関があり、SOD2の発現が予後予測マーカーとして有用であることが解った。更に、この活性を標的に、糖尿病治療薬Buforminと脂肪酸のベータ酸化阻害剤のEtomoxirを腎癌の治療薬候補として示すことができた。 2)グルコース枯渇耐性腎癌細胞株は、ヒドロキシル化したHIF-2が活性化しており、その耐性に寄与しており、siRNA処理でHIF-2の発現をノックダウンすると死滅することが解った。この細胞死は、グルコース枯渇耐性腎癌細胞株で発現が高いTRAILにより引き起こされており、この細胞死は、HIF-2の発現により、TRAILから誘導されるアポトーシスを抑制するFLIPの発現亢進により抑制されていることが解った。また、患者の予後とTRAILの遺伝子発現とに強い相関があり、TRAILの発現が予後予測マーカーとして有用であることを明らかにした。更に、HIF-2とFLIPが腎癌の治療ターゲットであることが示された。 3)臨床腎癌組織の次世代シーケンサーを用いた網羅的な発現解析データの解析においては、腎癌の予後予測マーカー遺伝子候補を抽出して、各遺伝子発現に対する予後のROC解析を行い、診断率90%以上の遺伝子を7つ見つけた。その一つであるARL4C遺伝子が、予後予測マーカーとして臨床応用可能であることがわかった。
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