研究課題
TCR遺伝子治療はガン免疫療法の一種であり、ガン患者から取得したガン細胞特異的TCR遺伝子を用いて、人為的にガン細胞特異的T細胞を作成し、それを患者へ投与することでガン治療を行う。この治療法においては、いかにして個々の患者から迅速にガン特異的TCR遺伝子を取得するかが重要な課題の1つである。そこで、本研究では「ガン特異的TCR遺伝子を簡便・迅速に取得するシステムの構築」を目的としている。27年度は、(1)TCRの遺伝子増幅法の改良、(2)培養細胞を用いたTCR機能評価系の作製、(3)マウスメラノーマ特異的TCR遺伝子の取得。上記の3課題に取り組んだ。(1)単一T細胞から完全なTCRのcDNAを効率よく増幅するために、IMGT(http://www.imgt.org)より、ヒトおよびマウスのTCRの翻訳開始コドンを含むリーダー配列の遺伝子配列を取得して、TCRαおよびβの完全なcDNAの増幅が可能なプライマーのセットを作製した。これらのプライマーセットを用いて、ヒトおよびマウスの単一T細胞から、80%以上の効率でTCRαとβをペアで増幅が可能であることを確認した。(2) TCRの機能をルシフェラーゼ・レポーターアッセイで評価するために、TCRの機能的な発現に必要なCD3複合体、CD8、またTCRの活性化シグナル伝達に必要な分子SYK、NFAT-C2、およびNFAT応答配列-ルシフェラーゼ遺伝子をHEK293T細胞へ遺伝子導入し、それらの安定発現細胞株293T-Lucを作成した。この293T-Luc細胞へ、EBウイルス由来のBRLF1ペプチド抗原に特異的なヒトのTCRを遺伝子導入し、TCRの抗原特異性を評価できることを確認した。また、メラノーマ抗原であるTRP2ペプチド抗原に特異的なマウスのTCRでも、293T-Lucを用いてTCRの抗原特異性が可能であることを確認した。(3) 5匹のC57BL/6の側腹にB16F10メラノーマ細胞を移植して形成させた腫瘍より、腫瘍浸潤T細胞を取得し、 (1)で確立した方法を用いて個々の単一T細胞からTCR遺伝子を増幅した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の3つの課題のうち、(1)TCRの遺伝子増幅法の改良、(2)培養細胞を用いた機能評価系の作製、上記の2課題に関しては計画通りに研究が進み、想定していた成果が、ほぼ100%得られている。課題(3)マウスメラノーマ特異的TCR遺伝子の取得に関しては、腫瘍浸潤T細胞からのTCR遺伝子の取得までは完了し、現在クローニングしたTCR遺伝子を課題(2)で作製した細胞へ遺伝子導入し、B16F10メラノーマ細胞に対する特異性の解析を進めているところである。課題(3)に関しては、想定した目標の60%程度まで到達している。以上より、概ね順調に進展していると判断した。
ほぼ当初の研究計画の通り研究を推進する。次年度は、引き続き293T-Luc細胞を用いてB16F10移植マウスからクローングしたTCRのB16F10細胞に対する特異性の解析を進める。もし、293T-Luc細胞での抗原特異性の解析が困難な場合には、その他のT細胞株、あるいはマウスの脾臓から調整したT細胞を用いることで、クローニングしたTCRの抗原特異性の解析を行うことを検討する。その後、(1)in vitroにおけるB16F10特異的TCRの細胞傷害活性能の評価、(2)in vivoにおけるB16F10特異的TCRの細胞傷害活性能の評価を行っていく。
(1)TCRの遺伝子増幅法の改良。(2)培養細胞を用いた機能評価系構築。上記の課題が順調に進んだ為、それらの実験に購入予定であった試薬等の費用の繰越が生じた。また、課題(3)マウスメラノーマ特異的TCR遺伝子の取得において、293T-Lucを用いた抗原特異性の評価が未完了で継続中であり、それらの実験に必要な試薬類の費用も繰越となっている。
次年度も、引き続き遺伝子導入試薬等、研究に必要な試薬の購入が必要となるので、それらの購入を予定している。
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Science Translational Medicine
巻: 7 ページ: 1-13
10.1126/scitranslmed.aac5477