研究実績の概要 |
近年、モノクローナル抗体に抗癌剤を結合することで直接的に癌細胞殺傷効果を示す抗体薬剤結合体(Antibody drug conjugate: ADC) が注目され開発が進められている。私たちはプロテインGのIgG結合ドメインとジフテリア毒素を含むリコンビナント複合タンパクを 作製しDT3Cと名付けた。このDT3Cは抗体と混合するだけでADCと類似な抗体毒素結合体を簡便に形成できるタンパク質である。抗体-DT 3C結合体が癌細胞に細胞死を誘導した場合、その抗体はADCに必須の機能である内在化能を有すると判定できる。本研究では、EGFR阻害薬耐性を獲得した肺腺癌細胞(HCC827GR2)に対し内在化能を有する抗体を探索し、EGFR阻害薬耐性細胞を効果的に細胞死に誘導させうる抗体を樹立し、新規ADC型抗体薬の開発を目指すものである。平成27-28年度でADC型抗体薬として有力な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が72クローン樹立できた。この中にはアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)に対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が含まれた。ACE2はレニンーアン ギオテンシン系の主なエフェクター分子であり、重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスの受容体としても知られている。ACE2発現はHCC827GR2で親株であるHCC827よりもはるかに高く、正常肺細胞では低発現であることから、EGFR阻害薬耐性を獲得した肺腺癌の治療標的として有効と考えられた。その他の有力な候補としEGFR, ICAM1, CD155, CD224, CD98hcなどが樹立され、改めてこのスクリーニングの系が優れていることが示された。これらの抗体についてはADC型抗体薬としての有効性を引き続き評価したいと考えている。
|