研究課題
平成27年度は自殺遺伝子治療効果について培養細胞を用いて評価する実験を予定していたが、前段階として本研究で用いる前立腺特異的プロモーターであるPSES(アンドロゲン非依存性)およびARR2PB(アンドロゲン依存性)と前立腺非標的化Retroviral replicating vectors(RRV)のプロモーター活性を通常の培養条件およびアンチアンドロゲン剤投与下で比較する実験を行った。臨床応用で対象となる進行前立腺癌患者では、すでに行われているアンドロゲン除去療法により低アンドロゲン状態にあり、これを模した環境下でのプロモーター活性を確認することが重要と考えたためである。本実験では実際に臨床で広く用いられているフルタミドおよびビカルタミドを用いた。また、陽性コントロールとして合成アンドロゲンであるR1881を用いた。培養細胞株LNCaP細胞を用い、R1881を10nMおよび、アンチアンドロゲン剤フルタミドまたはビカルタミドを10μMの濃度で添加した培養液中で、各プロモーターの活性を測定して比較した。各プロモーター活性はルシフェラーゼアッセイで調べた。LNCaP細胞のアンドロゲン受容体(AR)はミューテーションを起こしておりフルタミドにより活性化される。このため、フルタミド存在下ではARは逆に活性化されて細胞増殖が促進され、これにともなって各プロモーター活性も上昇した。これに対してビカルタミドによりARをブロックするとARR2PBの活性は低下したがPSESの活性は影響を受けなかった。以上の実験から、PSESプロモーターはアンチアンドロゲン療法下でも非標的化プロモーターと同等の活性を保つことが確認された。このことは現在研究している前立腺標的化RRVを用いた遺伝子治療を去勢抵抗性前立腺癌患者へ応用するうえで非常に重要な結果である。
3: やや遅れている
研究実績の概要で述べたように、本研究で行う遺伝子治療を実際の臨床で行うことを考えた場合、対象となる進行前立腺癌患者では、すでに行われているアンドロゲン除去療法により低アンドロゲン状態にあり、まずそのような環境下で前立腺特異的プロモーターの活性を確認することが非常に重要と考えたため、予定している実験に先行して前段階の実験を行った。今回の実験結果によりPSESプロモーターが低アンドロゲン状態にある前立腺癌患者でも応用できる可能性が示されたことは、前臨床試験だけでなく臨床試験を視野に入れて本研究を行うために非常に有益であると考える。このような前段階の実験を行っていたため、本研究は予定していたよりも遅れた。
研究実績の概要で述べた実験の結果をもとに、平成27年度に行う予定であった培養細胞を用いた自殺遺伝子治療の治療効果についての評価を行う予定である。具体的には、前立腺特異的プロモーターARR2PB またはPSES プロモーター配列を用いて前立腺標的化RRVを作成し、前立腺標的化RRV の抗腫瘍効果をin vitro で評価する。予定していた研究計画からは遅延しているが、平成27年度分の実験に加えて、28年度分の研究を可能な限り施行する予定である。
研究実績の概要で述べたような実験を平成27年度に予定していた実験よりも先に行ったため、当該年度に物品の購入が不要になったため残額が生じた。これらの費用は翌年に繰り越すこととした。
翌年に繰り越した平成27年度分の研究とともに、平成28年度分の研究を行うために使用する。具体的には、クローニングに用いる制限酵素・電気泳動バッファー・コンピテント細胞など、RRVの作成に用いるトランスフェクション試薬・RRVの抗腫瘍効果を確認するために用いるMTS assay 用試薬・ガンシクロビルなどと、細胞培養用の培養液やパイペットなどの購入費にあてる。
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