研究課題
平成28年度は培養細胞を用いた自殺遺伝子治療効果を評価する実験を予定していたがこれを変更した。本研究で用いるレトロウイルスは血液系細胞への感染による癌化の危険性が指摘されている。そこで本研究では前立腺特異的プロモーターを用いた前立腺標的化により血液系細胞への感染率が減少できると仮定して研究を行っている。本年度はこのことを確認するために血液系細胞を用いて前立腺標的化プロモーターの臓器特異性を確認する研究を行った。前立腺特異的プロモーターであるPSES(アンドロゲン非依存性)およびARR2PB(アンドロゲン依存性)で制御された増殖型レトロウイルスを末梢血単核球細胞に感染させて非標的化ウイルスによる感染率と比較した。ウイルスによる感染率はマーカー遺伝子としてGFPを用いてフローサイトメトリーにて評価した。感染後5日の時点で、非標的化ウイルスによる感染率は25%程度であったが、前立腺標的化により4%程度に低下させることができた。GFP陽性と判定された細胞についてもフローサイトメトリーでのGFPのシフトは非常に小さいものであり、非特異的なシフトとも考えられた。以上の結果より、前立腺特異的プロモーターによるレトロウイルスの前立腺標的化により血液系細胞への感染が抑制されることがわかった。臨床応用において血液癌誘導の可能性を低くすることは非常に重要であり、本研究の重要性と効果が確認された。
4: 遅れている
本研究で用いるレトロウイルスには血液系細胞に感染して悪性腫瘍の発生を誘導する可能性があることが指摘されている。この血液癌の誘導の可能性をできる限り低くすることはレトロウイルスを用いる遺伝子治療において最大の課題とされている。このためいくつかの対策がとられているが、そのうちの一つが本研究で採用されている組織特異的プロモーターによる標的化である。本年度は予定していた研究と異なる研究を行ったが、血液系細胞への感染率を抑えることができた今回の研究結果は、本研究テーマ全体にとって非常に有益なことである。組織標的化による安全性の改善が確認されたことは、今後の前臨床研究から臨床研究への応用に有利であると考える。
平成28年度までに行う予定であった培養細胞を用いた自殺遺伝子治療の治療効果についての評価を行う予定である。具体的には、前立腺特異的プロモーターPSESおよびARR2PBプロモーター配列を用いて前立腺標的化レトロウイルスを作成し、前立腺標的化レトロウイルスの抗腫瘍効果を培養細胞を用いて評価する。予定している研究計画から遅れているため、平成29年度に予定していた研究を完了させることは困難と考えるが、可能な限り研究をすすめる予定である。
本年度予定してた実験から変更して、研究実績の概要で述べた内容の実験を行ったため、当該年度に購入予定であった実験器具、試薬の購入が不要となったため、残額が生じた。これらの費用を翌年に繰り越すこととした。
繰り越した研究費は平成28年度までに予定していた研究を行うために使用する。具体的には前立腺標的化レトロウイルスを作成するためのクローニングに用いる制限酵素、電気泳動バッファー、コンピテント細胞などや、レトロウイルスを作成するためのトランスフェクション試薬、レトロウイルスの抗腫瘍効果を確認する際に用いるMTS assay用試薬、プロドラッグであるガンシクロビルなどの購入費用にあてる。
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Neuro-Oncology
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10.1093/neuonc/nox038