研究課題/領域番号 |
15K06884
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
黒澤 仁 藤田保健衛生大学, 研究支援推進センター, 講師 (10410739)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒト抗体 / ヒトRas変異 / がん / モデル動物 / 免疫 / 抗体評価系 / がん周辺微小環境 |
研究実績の概要 |
本研究は免疫系に異常の無い発がんモデルラットを用いて、がん免疫寛容系の解除を行える抗体を開発する事にある。28年度までの研究で本研究対象となる発がんモデルラットは免疫系に欠損の無い野生型の表現系を保持し、発がんに必須なヒト変異ras遺伝子を部位特異的に発現する事によって発がんするモデルであり、これらの作製が膵がん、肺がんという今がんにおいて最も喫緊の解決課題であるがん種を解析できるモデルである事が明らかにしている。一方で、これまではがん細胞表面上に特異的に提示され、かつ正常組織には発現が無い、抗原を標的として治療をする事をコンセプトとするいわゆる“魔法の弾丸”理論が一般的であった。本申請者らもこれらのコンセプトに従いがん細胞膜上に提示される抗原に対する特異的抗体の網羅的単離に成功し、これらのセットの完備を行った。これに加えて本申請者は直接攻撃性以外の因子に効果を示す事が示唆された抗体の候補も完備し、このモデルで解析することを目指した。 28年度以降は、安定的モデルの作成が可能かどうか、再現性の観点から調査した。また、膵がん以外に肺がん等も同様の観点から調査し、3度に渡る作成の試みでいずれも再現性良く発がんモデル作成が成功した。また、同時に進行した連携研究者の津田洋幸教授の詳細な病理解析の結果転移や遊走等他のモデルには無いがんの特性を良く表現するものであった。これらの性質とヒト患者より取得されたがん組織切片臨床検体の免疫染色像を膵臓がん、肺がんで行い、モデルの優位性と有望な抗がん細胞膜抗体の選別を進めた。これらの過程の中で肺がんの免疫染色と病理診断結果をまとめて論文発表を行った。 29年度はこれらの成果を受け、がん微小環境免疫環境の解除に貢献する有望な合目的抗体、並びにこれらのコンセプトに相乗効果をもって使用可能な抗体を提示し研究をまとめる予定である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模抗体セットの完備、モデルラットの再現性をもった作成の成功に加え、 モデルラットには転移、侵潤、遊走と言った他のゼノグラフトモデルには無い性質も見出し、この評価系のポテンシャルの高さを証明した。 他方今回対象とした肺がんに関しては病理組織の免疫染色から得られる組織像の膨大な病理診断結果をまとめて上記抗体セットの肺がんにおけるデータを体系的にまとめる事が出来た。 29年度はこれらヒトサンプルで得られた抗体データと抗体を用いて、モデルラットへのアプライを行い、最終的なまとめを行う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題はインタクトな免疫系を保持し、ヒトがん患者に極めて近い発がん様相を示すRas変異発がんモデルラットを用いてがん微小環境免疫寛容系の解除を行えるヒト高機能抗体の提示を大きな目標にしている。 次年度が最終年度となる本研究は最低でも一つ合目的高機能性ヒト抗体を提示する事が絶対的目標になるが、全期間を通して、このモデル系や抗体セット自身のデータを通して次世代がん創薬の方法論や抗体マテリアルも成果として提示できる事を目指す。すなわち膨大な抗体セットとデータを用いて、例えば抗体医薬開発と並行してコンパニオン診断が可能なデータの蓄積と実際に診断キット開発に応用可能な抗体の提示、急激に脚光を浴びつつある状況にある“がんの免疫寛容システム破壊”というコンセプトに着目した動物実験によってその薬効を調査するためには免疫系が機能している状態で、かつ、より自然に近い形で発生したがんを保持するモデル系と評価方法の提示等がその最終目標となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.前年度に引き続き今年度も連携研究者の名市大津田洋幸教授の全面的なバックアップと協力によってモデルラット解析部分に関する費用を持つ必要がほとんどなかった為。2.藤田保健衛生大学にある共同利用実験施設のバックアップ体制の充実により、試薬の購入等のみでイメージング機器等の使用が可能であった。3.本年はデータ取得効率を上げるため、研究補助員を一名雇用し研究の加速を狙った。これらの影響で、前年度の繰り越し金を除けば今年度の予定金額はほぼ予定通り使用されている。4.藤田保健衛生大学の競争入札システム等試薬購入に関する費用低減の努力によって、試薬等は平均で定価の7割弱で納入されている。 これらの結果研究費用を抑える事が出来た事が理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度も研究加速を狙い引き続き研究補助員の雇用を継続する。今年度も結果のまとめとして論文発表や学会発表を予定しており、本年度で予定額は全額執行する予定である。
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