本研究課題は免疫系に欠陥の無い、ヒトがん患者に極めて近い発がん様相を示すRas変異発がんモデルラットを用いてがん微小環境免疫寛容系の解除を行えるヒト高機能抗体の提示を大きな目標にしている。本年度は全期間のまとめとして、膨大な抗体セットとデータを用いて、抗体医薬開発と並行してコンパニオン診断が可能なデータの蓄積と実際に診断キット開発に応用可能な抗体の提示、“がんの免疫寛容システム破壊”というコンセプトに着目した動物実験によってその薬効を調査するために免疫系が機能している状態で、かつ、より自然に近い形で発生したがんを保持するモデル系と評価方法の提示を目指して研究を進行させた。その結果、アデノシンを介した抗炎症作用メカニズムで知られるCD73、A2AR等の抗体取得を成功させた。また、これらの取得された抗体をヒト変異型Rasの部位特異的発現を行ったコンディショナルなトランスジェニックラットにて発がんした膵がん組織や各種マウス膵がん細胞を用いて評価を行った結果、本研究課題で提案しているモデルラットでおいてのみ反応性が確認された。興味深い事にマウスーラット間のCD73抗原のアミノ酸レベルでの相同性はラットーヒト並びにマウスーヒトのそれに比して極めて小さいにも関わらず本モデルラットではマウスで交叉性を示さない抗ヒト抗体にも反応出来る事例が複数存在した。これらの結果により、本モデルラットはその発現様式のみならず、抗原レベルでのエピトープとしてもよりヒトの自然発がんしたがん組織に近い事が強く示唆され、今後の抗がん抗体開発における他のモデルには無い強いポテンシャルを保持している事が示された。
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