研究課題/領域番号 |
15K06885
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 徳之 立命館大学, 薬学部, 助教 (10363996)
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研究分担者 |
木村 富紀 立命館大学, 薬学部, 教授 (40186325)
杉江 知治 関西医科大学, 医学部, 教授 (70335264)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非コード性RNA / 乳癌 / 核酸医薬 |
研究実績の概要 |
1.ヒトEphA2 アンチセンス(AS) RNAの同mRNAに対する作用の検討:EphA2 AS RNA及び同mRNAの二次構造上で一本鎖領域を推測し、更にmRNAに関しては種間で保存されている領域をEphA2 AS RNAと同mRNAが相互作用する領域候補とした。この領域配列からなるセンスオリゴデオキシヌクレオチド(seODN)を作製した。seODNはEphA2 AS RNAと二本鎖を形成する結果、RNase Hによる選択的分解の結果、EphA2 AS RNAの同mRNA制御効果の検討が期待できた。また、乳癌培養細胞2種でEphA2 AS RNAを強制発現させた。これら2つの実験において、EphA2 mRNA発現に影響は認められなかった。
2.ヒトEphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とするmiRNAの探索:EphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とするmiRNAをmiRNA標的検索ウェブサイトで検索した。その結果、miR-126, miR-335, miR-4267がEphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とすることが推測された。これら3種のmiRNAに関して、EphA2 AS RNA又は/及び同mRNAとの相互作用をルシフェラーゼレポーターアッセイ法によって検証している。更に、これら3種のmiRNAに関してAntimiRによりそれらの機能を抑制すると、EphA2 AS RNA及び同mRNAの発現量が増大した。また、miRNAの機能部位のみを強制発現させると、特にmiR-335に関して、ヒトEphA2 AS RNA及び同mRNAの発現量を減少させた。
以上の結果から、ヒトEphA2 AS RNAは同mRNAに対して作用を示さない可能性が示唆された。一方、ヒトEphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とするmiRNAが同定されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間1年目に同定したヒトEphA2 AS RNAは、同mRNAの3’UTRに重複して存在していた。5’UTRやプロモーター領域に重複して存在する場合はエピジェネティックな作用を示し、3’UTRと重複する場合は転写後性調節に関与する傾向がある。しかしながら、上記の結果は、3’UTRと重複するにも関わらず、転写後性調節に関与しないことが考えられた。これはネガティブながらも、学術的に一つの知見を提供すると考えられる。 一方、核酸医薬シーズとして、ヒトEphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とするmiRNAを新規に3種同定し、検証を重ねつつある。その中でも特にmiR-335の機能部位(seed領域)を乳癌培養細胞内に導入させると、ヒトEphA2 AS RNA及び同mRNAの発現を劇的に減少させた。これは、miR-335機能部位が核酸医薬シーズとして有力な候補として考えられることを意味する。EphA2 mRNAのみを標的とすることがこれまでに知られているmiRNAとの比較検証が必要であるが、今後の研究の推進方策において後述する。 臨床検体の解析に関しては、当初の予定である設定臨床数20症例を完了した。しかしながら、乳癌のサブタイプに分類して検討したところ、実験群、特に転移が認められる患者由来の症例数が統計解析するには不十分であることがわかった。単純に解析症例数を増やすことでは時間がかかるため、解析母集団を転移が認められる場合とし、臨床研究を新規申請している。また、関連遺伝子発現として前述miRNAについても解析予定としている。
関与因子が追加されて計画とは異なっているが、ネットワークという枠で因子間の機能を捉えつつある状況にある。以上のことから、核酸医薬シーズ創出という観点で推進されていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.ルシフェラーゼレポーターアッセイ法を用いたmiRNAとヒトEphA2 AS RNA又は/及び同mRNAとの相互作用:EphA2 AS RNA及び同mRNA上のmiRNA標的部位変異体を含めた実験を完了させ、miRNAとEphA2 AS RNA又は同mRNAとの相互作用を検証する。更に作製済みのmiRNA前駆体を形質導入した乳癌培養細胞やEphA2 AS RNA又は同mRNA過剰発現を同時に用いることで、これら3因子間の関係を検討する。 2.miR-335の機能解析:miR-335機能部位の細胞内導入時における生理的機能を細胞増殖アッセイ、細胞遊走アッセイ、細胞浸潤アッセイなどを用いて評価する。また、これまでに報告されているEphA2 mRNAを標的とするmiRNAでの効果に関して、miR-335と比較検証を行う。 3.臨床検体を用いた解析:臨床検体におけるmiR-126, -335, -4267の発現を追加解析し、EphA2 AS RNA及び同mRNAとの相関関係を臨床的に検討する。更に、The Cancer Genome AtlasやThe MD Anderson Cancer Centerなどの公開データベースを用いて、上記miRNAとEphA2 mRNAとの相関関係に関して検討する。 4.miR-335の標的因子の探索:miR-335のEphA2 AS RNA及び同mRNA以外の標的を調べるために、miRNA過剰発現実験系と機能抑制実験系において、マイクロアレイを用いてトランスクリプトーム解析を行う。
以上の実験から、EphA2 AS RNA及び同mRNAを標的とするmiRNAを同定し、EphA2発現に関与する分子間ネットワークを包括的に明らかにすることで、EphA2が関与する癌において開発価値のある核酸医薬シーズを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所要額の内、12%が未使用との報告になった。これは、2017年3月上旬での状況であり、3月にも実験のために消耗品を発注している。miRNAの機能を抑制するAntimiRというLNA合成に納期がかかり、年度をまたぐ状況ともなっている。これらを考慮すると、3月末においては請求額に近い発注額となっている。科研費制度の変更により基金化され、これを利用して年度末における実験を停滞させることなく進捗させた結果である。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年3月末においては請求額に近い発注額となっている。
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