研究課題
固形がんの組織はがん細胞と周辺の様々な間質成分が混在する形で成立している。近年、間質の中でも特に線維芽様細胞(間質細胞とも呼ぶ)によるがん細胞の増殖制御(がん-間質相互作用と呼ぶ)が注目されている。我々はこれまで、がん-間質相互作用を調節する、即ち間質細胞に作用して抗がん活性を発揮する低分子化合物を微生物培養液から発見し、それらが動物実験で抗がん活性を示す事を見出してきた。そこで、本研究ではこれまでの成果をさらに発展させ、がん-間質相互作用を調節する新たな活性物質を発見するとともに、活性物質の詳細な作用機構を解析し、間質細胞に作用して抗がん活性を発揮する分子基盤を明らかにすることを目的とした。初年度である平成27年度は、蛍光タンパクGFP遺伝子を安定的に導入したヒトがん細胞株と対応する臓器由来のヒト間質細胞との共培養系を用いて活性物質の探索を行った。具体的には、これまで我々が未だヒット化合物を得ていないがん種である、肺がん、膵がん、大腸がん由来のがん細胞と各臓器由来の間質細胞を用いた。活性物質の探索源として、放線菌およびカビ培養液を用いた。その結果、肺がんの共培養実験系で、がん細胞および間質細胞のみの培養に比べて共培養した時にがん細胞の増殖を強く阻害する活性をある放線菌培養液に見出した。活性物質を単離・精製し、MS、NMR、結晶構造解析から構造を決定した。この化合物は低分子化合物であり、比較対照とした前立腺がんの共培養系では目的の活性を示さず、肺がんに対して選択的な作用があることが示唆された。一方、先行している新規化合物intervnolinは胃がんの共培養系で目的の活性を示すが、作用機構の解析を行った結果、胃の間質細胞に作用することで胃がん細胞の増殖を抑制する因子の分泌を促進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度新たに活性物質を発見し、単離・精製、構造決定できた点は極めて順調である。しかし、先行している化合物intervenolinの作用機構については、間質細胞から分泌が促進される因子の同定に予想以上の時間を要してしまった。これは活性が不安定であるなどの原因であることから、今後実験方法を改良して対応する。
引き続き新しい活性物質の探索をつづけ、がん-間質相互作用を調節する活性物質を一つでも多く発見する。また、発見した化合物の作用機構の解析を進めると供に、大量にサンプルを調整し、動物実験での安全性評価および実際の抗がん活性について検討する。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
J. Antibiot.
巻: 68 ページ: 279-285
doi:10.1038/ja.2014.135
Cancer Sci.
巻: 106 ページ: 367-374
doi: 10.1111/cas.12624
PLoS One
巻: 10 ページ: e0119415
doi:10.1371/journal.pone.0119415
Chem. Pharm. Bull.
巻: 63 ページ: 463-468
doi: 10.1248/cpb.c15-00200
http://www.bikaken.or.jp