研究実績の概要 |
肝臓がんの細胞株であるHuh-7を用いて、iPS細胞の作製に有効ながん遺伝子であるc-mycの発現を抑制すると、SOX2, Nanog, KLF4などの他の幹細胞性維持に関わる遺伝子の発現上昇が見られた。また、c-mycとKLF4を同時に抑制するとSOX2, Nanogの発現はさらに上昇した。以上から、Huh-7細胞には未分化状態を維持するための強固なネットワークが存在することが示された。
Huh-7細胞を使って3次元培養を行うと、肝前駆細胞が分化した際に発現が上昇するアルブミンなどの遺伝子の発現が促進されることがわかった。さらに、これらの3次元培養では細胞数が多いほど分化が促進されたことから、3次元培養という強制的な細胞間接着においても細胞分化が促進されることが示された。
Huh-7細胞はがん胎児性タンパクであるalpha fetoprotein (AFP)を大量に産生するが、Huh-7にc-mycとalpha fetoprotein (AFP)の両方をsiRNAにより同時に抑制すると、肝臓で産生されるアルブミンや肝酵素のAKR1C1やCYP3A4などが有意に上昇することがわかった。そこで、この効果を化合物で検証するために、c-myc阻害剤であるF4-10058とAFP産生の抑制効果のあるテロメラーゼ阻害剤BIBR1532を同時にHuh-7細胞の培地に投与すると、ALBの増加とAFPの減少が同時に見られた。以上から、c-mycとAFPの同時抑制は肝臓がんの分化を促進し、腫瘍マーカーを抑制するため、がん治療に有効である可能性が示された。現在、これらの事実が3次元培養で促進されるかどうかを検証中である。
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