研究課題
【目的】EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI)治療への耐性化は、非小細胞肺癌治療における重要な課題である。本研究は、その克服を目指した新たな戦略として、代謝経路を標的とした新規治療法の開発を目的としている。【方法】昨年度樹立した、エルロチニブ(第一世代EGFR-TKI)耐性細胞6クローンおよび、オシメルチニブ(第三世代EGFR-TKI)耐性細胞3クローンを用い、耐性化に伴い亢進した代謝経路明らかにするためにメタボローム解析および全遺伝子発現解析を行った。【結果】EGFR-TKI耐性細胞では、乳酸をはじめとする解糖系の代謝物の細胞内濃度が有意に高いだけでなく、解糖系の律速段階であるヘキソキナーゼ遺伝子の発現亢進が認められた。これは、解糖系の活性化を示唆している。また、リボース 5-リン酸を含むペントースリン酸経路の代謝物および、複数のデオキシヌクレオチドの濃度も顕著に高いことから、ペントースリン経路の活性化が、下流の核酸合成を亢進させている可能性がある。ペントースリン経路の律速段階であるG6PD遺伝子の発現亢進が耐性細胞で確認されており、この経路の活性化に寄与していると考えられる。耐性細胞では、アスパラギン酸の細胞内濃度が顕著に低い一方で、TCA回路で産生されるNADHの細胞内濃度が高かった。これは、アスパラギン酸をオキサロ酢酸に変換することで、上記経路と並行しTCA回路も活性化することで、活発にエネルギー産生を行っている可能性を示唆している。【結語】本年度の研究により、治療標的とする代謝経路およびその原因となる遺伝子が明らかになった。次年度は、それら経路および遺伝子を標的としたEGFR-TKI耐性克服のための治療法の開発に向けた分子生物学的検討を行う。
3: やや遅れている
1.本研究で使用する予定であった本年度導入したメタボローム解析機器の不調により、立ち上げに大幅な時間を要し、年度中に本格的な運用ができなかった。そのため、以前使用していたCE-MS(キャピラリー電気泳動・質量分析装置)を修繕および調整しなおし、メタボローム解析を行った。このことが、研究の遅れの一因となっている。想定外の遅れではあったものの、CE-MSを用いたメタボローム解析および、DNAマイクロアレーを用いた全遺伝子発現解析により、EGFR-TKI耐性化に伴う代謝特性の変化(解糖系、ペントースリン酸経路の活性化、TCA回路の活性化のためのアスパラギン酸の活用)、そしてその原因となっている可能性の高い遺伝子発現の亢進を明らかにすることができた。この結果により、上記代謝経路および遺伝子がEGFR-TKI耐性克服の治療標的になるか評価する次の検討段階に進むことが可能となった。2.本研究は、以前構築したEGFR-TKI耐性細胞において、代謝依存性が解糖系からグルタミン代謝に移行したことに着目し、そのグルタミン代謝を標的とした治療法の開発を目的にした計画であった。しかしながら、新たに構築した耐性細胞では、上記のようにグルタミン代謝依存性は確認されておらず、研究の進め方に軌道修正が必要となった。一方で、この結果により、EGFR-TKI耐性化で代謝依存性の変化は高い確率で起きることを確認でき、耐性化に伴う代謝依存性の変化は耐性克服に向けた治療標的に成り得る可能性があるという、本研究の基盤となる概念が正しい可能性を示すことができたと考えている。今後、耐性化に伴う代謝依存性に違いが出た理由を遺伝子配列レベルで検討する必要があると考える。
1.解糖系を標的とした治療法がEGFR-TKI耐性克服の戦略として成り立つか基礎的検討を行う。耐性細胞の解糖系への依存性を確認するために、様々な濃度帯のグルコースを含む培地を用意し、増殖能を親株HCC827細胞と比較する。次に、解糖系亢進の主因と考え注目しているヘキソキナーゼ遺伝子が直接的な治療標的に成り得るか検討を行う。本研究で注目した遺伝子は、その機能および、がんとの関連性がほとんど明らかになっていない。そこで、耐性細胞におけるノックダウン実験、親株HCC827細胞での一過性発現の実験により解糖系への影響を検討する必要がある。解糖系への影響が確認された場合、この遺伝子の活性を特異的に低下させるヘキソキナーゼ阻害剤および、よく知られたヘキソキナーゼ阻害作用を有する2-デオキシ-D-グルコースについて、EGFR-TKIとの併用による増殖抑制効果について検討を行い、治療法として成立するか検討する。2.ペントースリン酸経路の活性化を標的とした治療法がEGFR-TKI耐性克服の戦略として成り立つか検討を行う。耐性細胞では、ペントースリン酸経路の活性化に伴う核酸合成が亢進している可能性が高い。EGFR-TKIと核酸合成阻害薬との併用による、EGFR-TKI耐性克服の可能性について検討を行う。3.耐性化に伴う代謝特性の変化の原因となる機序の検討を行う。解糖系の活性化にはヘキソキナーゼ遺伝子の発現亢進が、ペントースリン酸経路の活性化にはG6PDの発現亢進が関与している可能性が高い。これら遺伝子の発現が亢進する機序を明らかにする。耐性化に伴う遺伝子変異が関与している可能性があるので、全エキソン解析を行う。また、耐性細胞では複数の受容体チロシンキナーゼの発現が有意に亢進しており、耐性化の直接的な原因の可能性が考えられる。それら遺伝子の発現亢進と、代謝特性の変化に関連があるか検討を行う。
本年度の研究により治療標的とする代謝経路および遺伝子の候補を挙げることができたため、その標的に対する検討実験を次年度から開始する研究計画に変更を行った。そのため、次年度の研究費の配分を増やす変更を行った。
代謝変化の原因と考えられる発現亢進の原因をつきとめるための全エキソンシーケンシング解析および、各代謝経路を標的とした治療法がEGFR-TKI耐性克服の戦略として成り立つか基礎的検討を行うために必要な試薬類の購入を行う。また、成果発表、情報収集を目的とした学会参加のための旅費に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (1件)
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