研究課題
家族性の精神遅滞の脆弱X症候群(FXS)は、責任遺伝子FMR1遺伝子の5’非翻訳領域に存在するCGGリピートが不安定化して伸長し、FMR1プロモーターとCGGリピート領域の高度メチル化と、それに続くFMR1の発現抑制という一連のクロマチンの変化が起きて発症する。このFXSの根本的病因であるCGGリピートの不安定化には不明な点が多く、そのクロマチン動態を解明するためには、CGGリピート領域、具体的にはFMR1プロモーター領域に結合して、局所的なクロマチン構造を制御する因子を同定することが必要である。本研究では、次に示す二つのアプローチを軸としたゲノム編集と染色体工学・操作技術を活用して、CGGリピートに結合して、その動態制御、特に不安定化の初動に関わる因子の同定を試みる。1)FMR1遺伝子の発現は、正常に比して保因者で高く、発症すると抑制される。本研究ではゲノム編集を活用して、蛍光レポーターをFMR1遺伝子領域へノックインし、CGGリピートの動態を蛍光レポーター遺伝子の発現強度によって評価できる系を構築する。2)CGGリピート結合性因子の同定には、ゲノムの任意の配列に結合する因子を網羅的に同定する系である染色体免疫沈降法(ChrIP)という独自の染色体工学的オミクスアプローチを適用する。ChrIPについては、アプローチ1)で構築するレポーター入りの自然染色体に加えて、保因者由来のCGGリピートを人工的に複数個挿入した人工染色体を活用する。1)については、レポーター導入の効率とレポーターの発現強度が低いという問題点が浮かび上がり、再試行が必要と考えている。2)については、ChrIP適用のためのCGGリピート挿入人工染色体の改変を完了した。
3: やや遅れている
H27の課題は、CGGリピートの動態を蛍光レポーター遺伝子の発現強度によって評価できる細胞株を樹立することである。ヒト正常および保因者由来の完全長ヒトX染色体を保持するマウスA9細胞内で、ヒトX染色体上のFMR1遺伝子へのレポーター遺伝子のノックインを試みた。ノックインにはゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9の系を利用し、セルソーターによる細胞分取によって、クローン取得の効率化を試みたが、レポーター遺伝子の発現が極めて低かった上に、スクリーニングの結果、ノックインが成功しておらず、再試行が必要と考えている。一方、ChrIPによる因子同定には、すでに構築していたCGGリピートを搭載した人工染色体にChrIPに必要なタグ配列の挿入を完了させた。
資材の整備が進んだCGGリピートを挿入した人工染色体について、ChrIPを行い、CGGリピートに結合する因子の同定を進める。人工染色体の系では、メチル化、リピート伸長などのクロマチン動態の変化は起きないと考えられるが、保因者のCGGリピートに恒常的に結合しうる因子を同定できる可能性がある。一方で、再試行となるが、FMR1発現のレポーター細胞の樹立を進めるにあたり、H27はマウス細胞で実施したが、ヒト保因者細胞も試みる。レポーターの発現が安定しないと評価系として使用できないので、状況を判断しながら、代替案も検討していく。
次年度使用額だけでは、新しく実験に使用する用途がなかったため。
主にChrIP(アプローチ2)を進める。その際に自然染色体と人工染色体の両方で包括的に候補因子に近づけるようにする。
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