研究課題/領域番号 |
15K06897
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
板東 哲哉 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60423422)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 器官再生 / エピジェネティクス / ヒストンH3K27me3 / CRISPR/Cas / 炎症 |
研究実績の概要 |
ヒトやマウスを含め哺乳類の器官再生能は低く、手足を失うと再生することはない。しかしながら両生類や魚類、昆虫類などは再生能が高く、特に不完全変態昆虫類は付属肢を完全に再生できる。フタホシコオロギの脚を切断すると、創傷治癒、再生芽形成、位置情報の認識、再パターン形成を経て失われた部分のみが再生される。再生芽形成や再パターン形成過程においてエピジェネティック因子によるパターン形成遺伝子群の発現調節が重要と考えられている。我々はこれまでに、ヒストンH3K27メチル化酵素Enhancer of zeste (E(z))とヒストンH3K27脱メチル化酵素Utxの機能をRNAiにより低下させると、脚パターン形成遺伝子dacやEgfrの発現が異常になり、再生脚の付節の再パターン形成が異常になることを見出した。E(z)(RNAi)個体の脚を移植したところ、形成された過剰肢でも付節のパターン形成異常が見られたことから、E(z)やUtxは遠近軸方向のパターンの再構築に必要であることが分かった。これらの研究結果はDevelopment誌に掲載され、オンラインニュースや和文科学雑誌でも紹介された。 ヒストンの修飾の時空間的変化を可視化するためには、特定のヒストン修飾を認識するマーカー遺伝子をコオロギ個体内で発現させる必要ある。そこでCRISPR/Casシステムを用いた遺伝子ノックイン法の利用を検討しており、生存可能かつ表現型が容易に観察できる遺伝子を選択してノックイン法の確立を目指している。また、再生芽形成に伴うエピジェネティックな変化は、創傷治癒過程で起こると考えられる自然炎症に起因するのではないかと考え、マクロファージを枯渇させた個体での再生過程を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストン修飾の時空間的変化を可視化するためにCRISPR/Casシステムを用いたノックインコオロギの作出を目指しており、ゲノム編集技術の確立を急いでいる。現在は表現型を可視化できる遺伝子を標的とした遺伝子破壊の条件を検討しており、2つの遺伝子に対して合計5カ所のgRNAを設計してベクター構築を行っている。効率の良い遺伝子破壊が実現でき次第、遺伝子ノックイン法の確立を進めていきたい。 近年、炎症と再生の関連が明らかになりつつある。我々は炎症による再生の誘導にエピジェネティック因子の発現や活性の変化が関与するのではないかとの仮説を立て、炎症を抑えた状態でのエピジェネティック因子の発現変化を見ようとしている。条件検討の結果、薬剤投与による炎症を抑制することが可能となった。今後は炎症を抑制したコオロギでのエピジェネティック因子の働きを解析していく。
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今後の研究の推進方策 |
コオロギに対してCRISPR/Casシステムを用いたゲノム編集により、遺伝子破壊によるノックアウト個体を作出する方法を確立する。ゲノム編集技術が確立することにより、外来遺伝子をノックインすることも可能となり、ヒストン修飾を可視化するマーカー遺伝子の導入も可能となると期待される。 近年、炎症と器官再生の関連が非常に注目を集めている。炎症に伴うエピジェネティック制御が再生芽形成を誘導すると考えており、薬剤によりマクロファージを枯渇させたコオロギ個体と正常個体の再生脚での比較トランスクリプトームを行えるよう準備を進める。マクロファージ枯渇により発現が変化したエピジェネティック因子により制御されるヒストン修飾に焦点を当てて研究を展開させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPR/Casシステムによるゲノム編集およびノックイン実験系を立ち上げるにあたり、gRNA発現用ベクターの構築に時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
ゲノム編集した個体を効率良くスクリーニングするための試薬購入に充てることで、ベクター構築で遅れた分を取り返したい。
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