研究課題
アブラナ科シロイヌナズナ属植物ハクサンハタザオを対象に、野生植物集団におけるゲノム変異の網羅的な探索をおこない、野外環境に対する適応機構を解析することを試みた。全国約80地点から1個体ずつを収集し、次世代シーケンサーillumina Hiseq2000で全ゲノム解析をおこなった。得られた配列を構築済みのリファレンスゲノムにマッピングしたところ、各個体あたり17~32万箇所の一塩基多型(SNP)を検出した。これらのSNPの中から集団間で共通する約10万SNPをもとに、ハクサンハタザオの日本全域スケールでの集団構造解析をおこなった。各個体の地理的分布を考慮に入れたクラスタリング解析を行ったところ、中部地方と東北地方を境に南北2つの分集団に分けられることが明らかになった。また、同様の遺伝的分化パターンはPCA解析、STRUCTURE解析、近隣結合法による系統解析でもおおよそ支持され、他の日本産高山植物と同様に、氷期における分布拡大と間氷期における高地への退避によって集団分化が生じたと考えられる。ハクサンハタザオは標高2000mを超える山岳地帯にも分布する一方で、低標高域にも広く分布していることから、氷期-間氷期サイクル以降も環境適応によって分布域を広げたことも示唆される。さらに、南北の分集団間では気温を中心として生育環境が大幅に異なること、2つの分集団の交雑地帯が境界域に限定されることから、適応的形質も南北の分集団間で分化していることが予想される。今後は各地点の環境要因と対立遺伝子の在不在データを利用して、環境適応を担う遺伝子の探索をおこない、環境適応のゲノム基盤の解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定よりも解析個体数を増やし、全国約80地点に由来するハクサンハタザオの全ゲノム解析を実施した。その結果、ハクサンハタザオの日本全域スケールでの集団構造解析をおこなうことに成功した。ゲノムワイドな集団構造解析により、従来型の遺伝マーカーを用いた解析に比べて、精度の高い結果を得ることができた。この結果を使うことにより、次年度以降の適応遺伝子の探索も容易になることが予想される。
得られた80個体分のゲノムデータに基づき、これまで以上に詳細な集団遺伝学的な解析をおこなう。特に、集団構造に関係する解析については、モデルを用いて集団の履歴を明らかにする。加えて、生育地の様々な環境情報と遺伝子型の相関関係を解析することで、環境との関連が予想される適応遺伝子の探索をおこなう。
解析精度を向上させるべく、当初の計画以上にゲノム解析個体数を増やしたため、データ解析を完了することができなかった。そのデータ解析に使用するはずであったコンピューター関連消耗品や成果発表のための旅費において次年度使用額が生じた。
データ解析に必要なメモリ・外付けハードディスク・ソフトフェアなどの消耗品費、また成果発表のための旅費に使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Genes & Genetic Systems
巻: 91 ページ: in press
PLOS Genetics
巻: 11 ページ: e1005361
10.1371/journal.pgen.1005361