研究課題
まず機能的miRNAの新たなスクリーニング法として、RISC-capture法を確立した。これにより、細胞内に存在するmiRNA及び標的となるmRNAを同時に定量することが可能になった。実際に正常B、Tリンパ球、及び各種リンパ腫細胞株、さらに実際のリンパ腫凍結サンプルに対してRISC-capture法を実施し、リンパ腫において様々なmiRNAが機能異常となっていることを明らかにした。また同時にRISCに取り込まれた(=miRNAの標的となる)mRNAを定量したところ、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)において、BCRの下流のシグナル伝達経路においてシグナルを増幅させる因子群のmRNAが異常に取り込まれていることを明らかにした。そこで実際のmiRNAの機能を検討するためにRISC構成因子を正常B細胞においてノックダウンしたところ、BCR経路が活性化し、B細胞の増殖が促進された。以上のデータはmiRNA群がBCR経路に対して抑制的に働くことを意味しており、B細胞リンパ腫に対する新たな治療方策として、miRNAの機能をまとめて調節する意義が示された。さらにmiRNAによって翻訳依存的に抑制される遺伝子を検討できるRibosome profiling法を開発した。これによりmiRNAによって翻訳抑制された遺伝子を定量的に評価することが可能になった。そこで私がこれまでに明らかにしたmiRNA異常の意義を検討するために、これらのmiRNA(-200c,-203,-31)をリンパ腫細胞株に導入し、Ribosome profiling法によってBCRシグナル因子を評価したところ、BCR因子の多くがmiRNAによって制御されることがわかった。シグナル経路を整理し、且つ実験的に検証した結果、miR-200c,-203,-31はNF-kB、Ras-MAPK、PI3K-Aktシグナル経路に対して抑制的に働くことがわかった。つまりリンパ腫細胞におけるmiRNAの発現低下がBCRシグナルの慢性的な活性化を促すと考えられる。さらに、これらのmiRNA群がEZH2依存的なエピジェネティック異常によって抑制されることも明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
H27年度は、本研究の骨幹となるRISC-capture法及びRibosome profiling法の確立に成功した。これらはmiRNA研究、シグナル伝達研究、遺伝子翻訳研究において画期的な技法であり、非常に汎用性があると考えられる。さらに、これらを駆使して、実際のB細胞におけるmiRNA制御の重要性、リンパ腫細胞におけるmiRNAの機能異常、標的遺伝子群の同定、シグナル伝達経路に対する影響を明らかにできた。またmiRNAが遺伝子翻訳に極めて重要な機能を持つことも改めて示すことができた。これらの成果は従来のmRNAの定量を基軸とした標的スクリーニングでは明らかにできない現象であり、miRNAの重要性が新ためて示されたと言える。これらの成果はScientific Reports (IF:5.578)に発表し、また米国血液学会などでも発表した。本年度はさらに、miRNAによるシグナル伝達経路のクロストークの制御メカニズム、miRNAの制御メカニズムの同定、上流のエピジェネティック因子の新たな機能についても計画を前倒しにして実施した。従って計画研究は順調に進んでいると考える。
H27年度に開発した新たなスクリーニング技術を用いて、miRNAの実際的な機能をより深く検討する。具体的には、(1)ヒト細胞におけるmiRNAによる翻訳抑制の分子メカニズムの解明、(2)DLBCLのoncogenic signalに影響するmiRNA群とその分子メカニズムの同定と臨床的意義の考察、(3)miRNAを制御する上位イベントとしてのエピジェネティクスを対象とした研究、(4)遺伝子異常によるシグナルの活性化とmiRNA群の関係性の同定、を計画する。さらに、miRNAの研究を応用して、HIV-1の潜伏化や、HTLV-1によるエピジェネティック異常なども検討課題として取り組む。miRNA、エピジェネティクス、シグナル伝達、遺伝子異常の個々と関係性の理解は他のがん及び感染症研究にも非常に有用であり、従って本研究は社会的にも大きな意味を持つと考える。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Blood
巻: 127 ページ: 1790-1802
10.1182/blood-2015-08-662593
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 17868
10.1038/srep17868.