研究課題/領域番号 |
15K06910
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
黒田 暁生 徳島大学, 糖尿病臨床・研究開発センター, 助教 (70571412)
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研究分担者 |
松久 宗英 徳島大学, 糖尿病臨床・研究開発センター, 特任教授 (60362737)
田蒔 基行 徳島大学, 糖尿病臨床・研究開発センター, 特任助教 (60624400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インスリン遺伝子 / エピジェネティック制御 / 制限酵素 / bisulfite処理 |
研究実績の概要 |
1. 膵β細胞のDNAメチル化特性 一つの個体を構成する細胞はすべて同じ配列のgenomic DNAを持つ。遺伝子発現を規定しているのがDNA配列である。Genomic DNAのC:シトシン、G:グアニンというCpG配列と呼ばれるCG配列がDNAのメチル化によって転写を調節している。生体内で膵臓のβ細胞のみが、血糖値を低下させるインスリンを分泌する。1型糖尿病では、膵β細胞が選択的に破壊され、その結果インスリン分泌不足となり血糖値が上昇する。(1)ヒトインスリン遺伝子の遺伝情報転写開始より上流に特異的なCpGが存在し、(2)この配列がメチル化されていない(脱メチル化)場合にその転写は開始して、逆にメチル化されていると転写が消失する(PLoS One. 2009;4:e6953)。 2. メチル化特異的制限酵素McrBC McrBCはメチル化特異的DNAを切断する制限酵素であり、遺伝子の塩基配列のA(アデニン)あるいはGに続く mC(メチル化C)から40-4000塩基離れた同配列の間でDNAを切断する。特にヒトインスリン遺伝子転写開始地点から-19、-69塩基の地点でのCpGサイトの脱メチル化状態は他の組織には存在せず膵β細胞特異的である (PLoS One. 2014;9:e94591)。同部位はMcrBCの認識配列であり、膵β細胞では切断されないが、全身の他の組織においては切断される。 3. 1型糖尿病発症予測因子の現状と膵臓、膵島移植の拒絶反応 1型糖尿病の膵β細胞傷害を表す指標はない。1型糖尿病の根治療法として、膵臓あるいは膵島移植が実施されており、慢性拒絶反応が長期成績を規定する。しかしこの反応を直接証明する方法はない。細胞死により放出される血中遊離DNAを用いて膵β細胞特異的なインスリン遺伝子の脱メチル化状態から、膵β細胞傷害の定量化できるかどうかを明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリン遺伝子転写開始部位より-206,-135,-69,-19塩基に位置するCpGサイトは膵臓β細胞で特異的に脱メチル化状態であり、他の組織においてはすべてメチル化状態である。McrBCでDNAを処理すると、膵β細胞由来のgenomic DNAは切断されないが、他の細胞由来のgenomic DNAであれば切断される。つまりMcrBCで切断されるインスリン遺伝子の転写開始地点から-19,-69塩基の上流および下流にそれぞれPCRのプライマーを設計した。膵β細胞以外の細胞はMcrBCで切断されるのでPCRでは検出できない。一方、膵β細胞は切断されないため検出できる。 McrBCが十分に作用して、かつ作用が過剰にならない量を検討した。膵β細胞特異的なエピジェネティック修飾を利用して循環血中の膵β細胞をより精度高く検出するために、TaqMan PCRを利用した。ヒトインスリンプロモーター領域を含むプラスミドを1e6~1コピーまで希釈系列を作成してTaqMan PCRで1コピーまでのDNAを定量できるかを検討した。膵β細胞を含まない血液由来のgenomic DNAをネガティブコントロールとして用いてMcrBCの濃度に応じた切断反応を検討した。大過剰量を投与して長時間の反応でも本来では切断されるべき血液由来DNAがMcrBC処理によっても1/1000程度にしか減少しなかった。McrBCは様々な遺伝子を認識して切断する部位があるため十分その作用を発揮するために他の制限酵素で認識部位を十分に切断する必要があると考えた。目的配列には存在しないがその他の配列を切断するAccII、AfaI、を加えて切断を試みたが、さらに切断効率が低下して1/10程度しか切断できなかった。以上のようにMcrBCでは切断効率が悪いため別の方法が必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 他のメチル化部位特異的に切断する酵素を用いた実験 McrBCの他にメチル化部位を認識して特異的に切断する酵素としてFspEI、MspJIが挙げられる。FspEIの認識部位はインスリン遺伝子転写開始部位から-135塩基および-206塩基のCpGサイトのメチル化Cを認識して切断する。またMspJIは-135塩基および-19塩基のメチル化Cを認識して切断する。これらの二つの酵素は同じ溶媒を用いて制限酵素反応を示す。このためこれら2つの酵素を同時に用いた酵素処理を行う。処理を行った後でこれらのインスリン転写開始部位の-206塩基~-19塩基の外側にプライマーを設定してTaqMan PCR反応を行う。 2. Bisulfite conversionを加えた検討 DNA をbisulfiteで処理すると、非メチル化シトシンがウラシルに変換されるが、メチル化シトシンは変換されない。このbisulfite処理したDNAのメチル化状態特異的なPCRを行うと非メチル化シトシンを有するDNAを検出できる。遊離DNA中に含まれる膵β細胞由来のインスリン遺伝子コピー数が大変少ないことが想定されるので目的となるインスリン遺伝子転写開始部位の-206,-69塩基にあるCpGサイトの外側にプライマーを設定してCpGサイトのメチル化状態に関係なく増幅するPCRを行う。PCR産物は二本鎖DNAであり-135塩基および-206塩基のCGを認識して切断する酵素Hpy188IとHinfIを用いて切断する。得られた産物ではメチル化状態特異的なPCRを行うと非メチル化シトシンを有するDNAを検出できる。つまり-206塩基と-69塩基のCpGサイトのTG配列に特異的なプライマーを作成して-135塩基のCpGサイトのTGに特異的なプローブを用いたTaqMan PCRを行う。これにより膵β細胞由来の遺伝子のみ増幅できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は計画段階の実験が多く十分に実験をできていなかった。本年度はある程度目標とする実験の内容が定まり、実験に用いる実験器具等の購入が多くかかることが予想される。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度の実験計画に則って1.他のメチル化部位特異的に切断する酵素を用いた実験、2.Bisulfite conversionを加えた検討を行う。これらの実験内容は前述のように詳細まで決定しているため実験器具等を購入して実際の実験を行ってゆくことを計画している。
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