研究課題/領域番号 |
15K06916
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
加藤 護 国立研究開発法人国立がん研究センター, その他部局等, その他 (40391916)
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研究分担者 |
筆宝 義隆 国立研究開発法人国立がん研究センター, その他部局等, その他 (30359632)
新井 康仁 国立研究開発法人国立がん研究センター, その他部局等, 研究員 (80222727)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一細胞シークエンス / がん不均質性 / がん細胞進化 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
がんの悪性化の原因はがん組織にみられる腫瘍内不均質性が関係すると考えられ、腫瘍内不均質化のメカニズム解明が求められている。しかし、がん組織を細胞塊として解析すると、がん細胞の特徴が平均化されてしまうため、不均質性を明らかにすることができない。そこで、不均質性の最小単位である単一細胞の状態を明らかにする、一細胞シークエンス解析が実施されている。従来の方法では、DNAもしくはRNAのみの解析が実施されたが、不均質性のメカニズムには、DNAおよびRNA両方の変化が絡むと考えられる。そこで、本研究では、腫瘍不均質性メカニズム解明のために、がん発達過程のDNAおよびRNAの変異及び変動を一細胞シークエンス技術によって同時に解析し、発達過程のオミックス変異の同定を試みる。 本年度は、分担研究者の筆宝義隆博士が確立したヒト大腸がん進展のモデルマウス系における腫瘍培養細胞の皮下導入直前・直後・進展後、これら3時刻点でのDNAおよびRNAサンプルに対し、分担研究者の新井康仁博士の協力を得て1細胞シークエンスを実施した。また、腫瘍部位から一細胞を分離しない細胞塊(Bulk)シークエンスも、クオリティコントロールとして実施した。がんの発達過程におけるエキソーム、およびトランスクリプトーム・データの入手が完了した。 さらに、本年度は、DNA解析、RNA解析ともに、解析に用いるデータの品質をチェックするため、1細胞シークエンスにより得られたデータと、Bulkのデータの比較を実施した。その結果、信頼性の低いサンプルデータを排除することに成功した。そのうえで、取得した塩基配列情報をもとに、DNA解析ではがん細胞の塩基配列の変異を検出し、RNA解析では全遺伝子の発現量を求めた。そして、変異情報および発現量情報をもとにがん細胞の変異の多様性の可視化に成功した。これにより、がん発達過程の変異および発現変動の可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞のシークエンスが完了し、DNA解析では各時点20-30細胞、RNA解析では各時点40-50細胞のシークエンスに成功した。それぞれのシークエンスデータに対し、品質チェックを行った。 まず、DNA解析では、一細胞シークエンス解析により得られた塩基配列情報の網羅性を検出するため、各時点の全一細胞について、各座位でのマッピング情報をもとにLorenz curve解析を実施した。さらに、技術的なエラーを検出するための各細胞のAllelic drop rate(ADO rate)の算出など数理的分析を実施した。これら解析の結果をふまえて、各時点で信頼性の低いサンプルデータを排除することに成功した。 また、RNA解析では、検出された遺伝子数をBulkと全一細胞シークエンスの結果比較することにより、正確性の低い細胞データの排除を試みた。その結果、得られたリード数が少ないにもかかわらず、検出される遺伝子数が大きいサンプルが検出され、これらを除去した。さらに、各時点において全一細胞データから求められた発現量(TPM)の平均とBulkのTPMをプロットし、比較した。その結果、全時点で相関係数0.7以上の高い相関を示した。一細胞データをまとめたものは、Bulkと同一の結果になると考えられるため、これらサンプルデータは発現量解析に用いても問題がないと考えられた。 DNAおよびRNA解析で、それぞれデータの品質チェックを行い、解析に問題がないことが確認されたサンプルをピックアップし、さらに、数理的解析方法の1例として、ヒートマップ解析を実行した。これにより、がん細胞の変異の多様性を可視化することに成功した。 以上のように、がん発達過程のDNAおよびRNAの変動の数値的データをそれぞれ入手し、可視化することに成功したが、まだDNAとRNAの情報統合には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、シークエンスを実施し、エキソームの変異同定、およびトランスクリプトームの発現量(TPM)を算出した。これにより、がん細胞の遺伝子変異および遺伝子の発現レベルでの多様性検出のためのデータを得ることに成功した。このデータをもとに今後、DNA解析で変異の多様性がみられた点とRNA解析で多様性がみられた点の比較、統合を行う。 具体的には、申請者が以前研究した集団遺伝学を取り入れた方法によって、同定された変異を分析する。たとえば、変異配列から系統樹を作成し、分集団を定義する。各分集団変異を時刻点別に分析することで、優勢な集団を生み出した原因と考えられる変異を同定する。同定の際には、分子進化のKa/Ks 分析、集団遺伝学のMK test などを用いて、自然選択の効果を定量的に評価する。また、がん細胞進化のシミュレーションやΛ-コアレスセント理論に基づくコアレスセント・シミュレーションなど、最先端の技法を使って、分子進化速度やがん細胞の増殖率などを推定する。さらに対照群を基点とした発現量変化分析を行って発現変化遺伝子を同定し、最後にiCluster のようなオミックス統合方法を用いて、ゲノム・トランスクリプトームを統合したクラスター分析、変異有無・発現変化を表現したヒートマップ分析などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね順調に進行しているが、消耗品費を費やす確認実験を行うまでにはデータ分析が進展しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
データ分析をさらに進展させ、確認実験を行う。
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