研究課題
染色体クロマチン構造がダイナミックに変化する細胞分化過程において、Polycomb Group (PcG) 遺伝子は主要なクロマチン構成制御因子である。本研究課題では、生殖腺マスター遺伝子を制御するPcG メンバーCbx2に焦点をあて、これまでの技術を基に、微量なマウス胚細胞を用いたクロマチン免疫沈降 (ChIP)-sequencingをおこなう。得られた結果からCbx2標的ゲノム領域を同定する。さらに、効率的CRISPR/Cas9ゲノム編集システムにより作製する標的ゲノム領域欠失マウスの解析により、空間・時間を反映した個体レベルでの標的ゲノム領域の機能検証をおこなう。研究成果はヒト性分化疾患発症機序解明に新たな解析対象を提示する可能性がある。Cbx2は性分化・生殖腺分化に必須であることが明らかにされている唯一のPcG構成因子であり、ヒトにおいても46, XY complete gonadal dysgenesisタイプの DSD患者にCBX2機能変異が報告されている (Biason-Lauber et al., Am. J. Hum. Genet., 2009)。以上のようにCbx2は哺乳類における生殖システム構築の根幹に関わる重要な因子である。本研究では、性分化・生殖腺分化に必須なクロマチン因子Cbx2を手がかりに、性分化・生殖腺分化クロマチンレベルのマスター遺伝子制御機構を明らかにする。昨年度から本研究を開始したが、性分化過程を反映する適切な培養細胞系がないことから、生殖腺分化前の生殖腺および生殖腺分化後の生殖腺/中腎を用いて行なっている。生体内で構築過程の生殖腺を用いることで、空間と時系列を考慮した組織構築分子機構を解明できる。Cbx2抗体は既に独自に作製しており、Cbx2発現量の低いMEFを用いた予備実験では、解析限界を超える沈降DNAを回収した。
2: おおむね順調に進展している
マウス胎児生殖腺を実体顕微鏡下で中腎領域と分離して遺伝子発現解析が可能であることを確認した。これまでgene expression arrayでマウスポリコームCbx2ノックアウト性腺で発現変動のある遺伝子の発現変化を検証した。さらに当時gene expression arrayでは検討していなかったが、近年性分化に関わると予想されているnon-coding RNA、splycing variantの発現変動も検証した。ChIP-seq解析は1回の実験が高額であることから、条件検討を充分に行なっている。一度に得られる組織細胞量が生殖腺分化前の雌雄胎生10.5日中腎を含む予定生殖腺および生殖腺分化後の雌雄胎生11.5日生殖腺/中腎 では10000~50000個と非常に少ないが、生殖腺組織を固定後集積し保存する方法を確立した。マウスのゲノム編集のための技術は多くの遺伝子領域において効率的に安定して行なえることが昨年度中に明らかになった。
Cbx2 の標的であるCpG Islandの特性を明らかにする。ChIP- Seq実験は、充分なリードを得ることを目指す。より予算的負担の少ない方法も検討する。
サンプル調整用キットの変更により金額が変動しました。
新たな条件検討を行なうため動物、試薬を購入予定。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Molecular Genetics & Genomic Medicine
巻: 3 ページ: 550-557
doi: 10.1002/mgg3.165.
Hum Reprod.
巻: 3 ページ: 499-506
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