研究課題
本研究では、シングルセル遺伝子発現解析を行い、細胞分化過程で遷移する遺伝子発現を擬似的にリアルタイムで観察し、(2)細胞分化の分岐点を同定することで、細胞の多様性を生み出す細胞の運命決定のメカニズムを明らかにすることを目的にしている。昨年度までに、iPS細胞から心筋細胞へ遷移する過程で変化する転写ダイナミクスを観察するために、分化誘導後0,3,5,7,9,21,30日後の20個以上の細胞に対してシングルセルRNA-seqを実施した。さらにその転写制御機構を明らかにするために時系列のATAC-seqを行うことでクロマチンが開いている領域を決定した。バイオインフォマティクスを含めた多層解析によって、心筋分化に寄与する新規の候補転写因子を同定した。今年度はさらに、遺伝子発現状態の複雑さをエントロピーを用いて定量化することで細胞の成熟度を測定する手法を開発した。その結果、分化誘導後21及び30日目で観察される心筋細胞の成熟度の違いをシングルセルレベルで描写することに成功し、相対的に成熟した心筋細胞が特異的に発現する膜表面タンパク質を同定した。この表面抗原を指標に濃縮された細胞集団は電気生理的及び細胞構造的に成熟した心筋細胞であることが示された。これらの成果は現在、論文投稿中である。さらに本研究課題で開発したシングルセル遺伝子発現解析の技術を用いて、臨床応用に用いる網膜色素上皮細胞の性質をシングルセルレベルで評価を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、シングルセル遺伝子発現解析を行うことで細胞の分化状態を描写することが一つの目的である。本年度、未分化なiPS細胞から心筋細胞へ分化する過程で変動する遺伝子群を同定した他、成熟した心筋細胞を単離する遺伝子を同定した。この成果は現在、論文投稿中である。さらに、本研究課題で開発したシングルセル遺伝子発現の手法は、元に世界初となるiPS細胞に由来した細胞移植における細胞の品質評価に用いられた(万代、渡辺ら、New Eng. J. Med., 2017)。このように、当初計画していたより早く論文投稿に至ったこと、当初予定していなかった応用が行われたことから計画以上の進捗が見られたと判断している。
論文の審査過程で、審査員より尋ねられた複数回の実験の比較や、エントロピーを用いた細胞成熟度の表現方法の改善を実施する。これらの作業の後、論文を再投稿する。2017年度中の受理を目指す。
本年度は、バイオインフォマティクスを中心に研究を進め、次年度以降に人員を増員し、追加実験を行うことが計画されていたために、次年度への繰り越しを行った。
研究を加速するために人員を追加し、実験を行う。そのため、実験に用いる物品費や人件費を計上した。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 1件)
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