本年度はドロプレット型のcDNA合成装置を用いて、一度に1000細胞以上の遺伝子発現プロファイルをシングルセルレベルで取得する実験系の立ち上げを行った。ヒトiPS細胞から分化誘導をかけた細胞について、時系列のシングルセルRNA-seqを実施して、遺伝子発現プロファイルを取得した。異なる遺伝子発現を示す細胞群を同定するtSNE(t-distributed stochastic neighbor embedding)の解析では、尿管芽とネフロンへの分化では、各々の細胞群が明確に異なる遺伝子発現プロファイルであることが示された。また、各細胞群で発現の異なる遺伝子を解析した結果、腎臓の尿管芽への分化誘導を促進する分泌型シグナル分子を同定した。この因子を分化の中間過程にある培養細胞で添加することで分化誘導の促進が確認された。 同じ手法を用いて、感音組織である内耳を構成する細胞について、シングルセルRNA-seqを実施した結果、有毛細胞または支持細胞に特異的なマーカー遺伝子の発現を示す細胞が観察され、各々の細胞群では明確に異なる遺伝子発現プロファイルであることが示された。このことは、有毛細胞と支持細胞の違いは、限られた数の遺伝子によって規定されるのではなく、より多くの遺伝子が機能の違いに寄与していることを示している。 さらに、膵臓再生モデルマウスより得られたβ細胞のシングルセルRNA-seq解析では、再生能の高い細胞において細胞周期を制御する遺伝子発現が異なっていること、そしてクロマチン状態を解析するATAC-seqでは再生能の高い細胞でクロマチンが開いた領域の数が増加していること、そしてその領域の転写活性が高くなっていることが示された。
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