研究課題/領域番号 |
15K06922
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
加藤 潤一 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (10194820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化ストレス耐性 / DNA修復機構 / ゲノム縮小株 / 染色体広域欠失変異 |
研究実績の概要 |
生物の増殖および生命システムを維持するための基本的なメカニズムの解明を目指して、大腸菌を材料に、特に我々が作製してきた染色体広域欠失変異群、ゲノム縮小株を利用して、以下の研究を行った。 ゲノム縮小株を利用してギ酸脱水素酵素が定常期における生存に関与していることをつきとめ、さらにギ酸脱水素酵素活性ではなく電子伝達活性が重要である場合があることを明らかにした。またゲノム縮小株の定常期における酸化ストレス耐性から同定した機能未知遺伝子aegA、ygfT遺伝子について、これまで大腸菌では知られていなかった尿酸の利用に関与することを明らかにした。これらの遺伝子群についての解析から、酸化ストレス耐性にはいわゆる活性酸素種の処理に関連する機能だけでなく、活性酸素種の発生を軽減するための種々の機能が存在することが示され、バクテリアが持つ広い意味での酸化ストレス耐性機構が明らかになってきた。 野生株では必須ではないがゲノム縮小株では必須になる遺伝子として同定された、嫌気性細菌や古細菌が持つルブレリスリンと相同なタンパク質をコードする機能未知遺伝子群yciG, yciF, yciEについて、酸化ストレス耐性に関与することが明らかになった。 ヘム合成遺伝子群の一連の変異株について、ポルフィリン中間体が蓄積する変異株は光感受性が強く、蓄積されたポルフィリン中間体によって生じた活性酸素種による酸化ストレスによることが示唆された。 染色体大規模欠失株を利用して、DNA polymerase IIIのχサブユニットをコードするholC遺伝子と、DNA helicaseドメインを持つタンパク質をコードする新規yoaA遺伝子が、DNA修復に関与することを明らかにしてきたが、yoaAがholC依存的にDNA修復に関与すること、またholCにはyoaA依存的な機能と非依存的な機能があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体広域欠失変異群、ゲノム縮小株を利用した、野生株では同定が難しかった潜在的な必須遺伝子群の同定についてはおおむね順調に進展した。 まずゲノム縮小株、染色体広域欠失変異を利用して、広い意味での新規酸化ストレス耐性機構を同定できたことは重要な進展である。これまでに、昨年度同定したytfK遺伝子に加えて、今年度はギ酸脱水素酵素、新規aegA、ygfT遺伝子を同定し、それらの解析から興味深い機能が明らかになってきた。また嫌気性細菌や古細菌が持つルブレリスリンと相同なタンパク質をコードする機能未知遺伝子群yciG, yciF, yciEについても、酸化ストレス耐性に関与することを明らかにすることができた。さらにヘム合成遺伝子群についても、ポルフィリン中間体が蓄積する変異株が酸化ストレスに関連して光感受性になることが示唆された。これらは重要な進展である。しかしまだ新規遺伝子を含めて多くの酸化ストレス耐性機構に関与する遺伝子群の同定、解析が十分ではない。さらにもっと広くゲノム縮小株、染色体広域欠失変異を利用して潜在的な必須遺伝子群を同定し、それぞれの解析を進めるのが今後の課題である。 酸化ストレス耐性とともに、染色体大規模欠失株を利用して、DNA修復に関与する遺伝子群として、DNA polymerase IIIのχサブユニットをコードするholC遺伝子と、DNA helicaseドメインを持つタンパク質をコードする新規yoaA遺伝子を同定することができたできたことは重要な進展である。これらについてもそれぞれの詳細な解析を進めるのは今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で、ゲノム縮小株により新規の合成致死を同定し、それを利用して多くの潜在的な必須遺伝子群を同定し、それ自身の解析を進めると同時に、関連する遺伝子群、ネットワークを解明するシステムの構築ができた。今後はこのシステムを利用することにより、同定された新規酸化ストレス耐性遺伝子の関連遺伝子群などを探索し、機能およびネットワークを明らかにしていきたい。また他の酸化ストレス耐性機構に関与する遺伝子群の同定もさらに進め、それらの解析を行うことにより広い意味での酸化ストレス耐性機構の全貌を明らかにして行きたい。 生物は様々な外的及び内的ストレスに対応する種々の耐性機構を持っている。これまでの膨大な研究により、主要な酸化ストレス耐性機構、DNA修復機構は同定されたと考えられてきたが、我々の染色体広域欠失変異株、ゲノム縮小株などを利用したゲノムサイエンス的な研究により、新規な遺伝子、機構が続々と同定されてきていることから、まだ全体像の理解には至っていないことがわかってきた。野生株を基にした研究では同定できなかった、機能が重複している機構などが、ゲノム縮小株などを利用することによって同定されてきたのかもしれない。本研究を発展させることにより、酸化ストレス耐性機構、DNA修復機構の全体像に迫ることができると考えている。 これまで酸化ストレス耐性機構、DNA修復機構は生命システムの頑強性を支える機構と考えられ、既知の酸化ストレス耐性機構やDNA修復機構を欠損しても致死にはならないので、これらの機構は生育には非必須であると考えられてきた。しかしこれは機能が重複する機構がまだ存在していたために致死にならなかっただけなのかもしれない。これらの機構を欠損した場合、特に新規に同定されてきた機構も含めて複数の機構を同時に欠損させた場合の必須性について調べてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究成果を論文にするための英文校閲代、投稿料などが必要なため。 (使用計画)英文校閲代、投稿料など。
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