研究課題/領域番号 |
15K06925
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
広井 賀子 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20548408)
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研究分担者 |
舟橋 啓 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (70324548)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロコンタクトプリンティング |
研究実績の概要 |
本研究は、神経細胞分化制御機構への流れ刺激の影響を定量的に調べるためのツール開発を行い、これを用いて神経細胞分化制御機構の解明に貢献することを目指している。 計画初年度である平成27年度は、ツール開発の基礎となる二つの要素技術のうちの一つ、マイクロコンタクトプリンティングのためのスタンプ作成、及び使用する細胞接着因子の選定が目標であった。 これらの目標について、ソフトリソグラフィにより作成したスタンプの構造的評価、及び接着因子を用いて行った実際のマイクロコンタクトプリンティングの機能評価を、実際に細胞を接着培養することで行い、細胞の培養、及びその環境の制御に利用可能であると判断した。判断の過程で、蛍光標識した細胞膜の観察のために必要となる顕微観察用の光源を導入した。本年度の成果について、国際会議にて2件のポスター発表を行った。 現在、H28年度の目標達成に向けて、第二の要素技術であるマイクロ流体デバイスの作成を開始している。様々な速さの流れのある環境と、流れのない環境の比較を効果的に行うためのデバイスデザインを考案し、試験的に作成しながら、目的の実験に適合するデバイス構造を検討中である。流速調節には、流路を流れる水について、キルヒホッフの法則が適用可能であることを利用し、抵抗を生み出す細い流路を目標の流速ごとに設置することで、複数の流速を生み出すことを計画している。 同時に、デバイスのデザインには、接着因子を壊さずに培養デバイスをガラス基板に圧着する方法を採用することを計画し、そのための構造をデザインに取り入れるように検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた要素技術のうちの一つ、ソフトリソグラフィを用いたマイクロコンタクトプリンティング用スタンプの作成と、接着因子の選定については、細胞培養環境における機能評価までを行い、想定したいた内容は行えたと考えている。ただし、今後もう一つの要素技術であるマイクロ流体デバイスの構造を具体的に決定する過程で、マイクロコンタクトプリンティングに対しても新たな性能評価が必要になる可能性が考えられるため、概ねにおいて順調であるとした。 実際に行った構造評価は、レーザー顕微鏡を使用したスタンプの高さ、及び面積の評価、機能評価の際には、その前段階として、接着因子をプリントしていない培養基板において、非特異的な細胞接着を防ぐためのポリマー処理の評価、加えてマイクロコンタクトプリンティングを行った培養基板に対する、接着因子塗布面積と細胞接着面積の比較、細胞接着のあるプリントパターンと起きなかったパターン数の比較を行った。 非特異的な細胞接着を防ぐための処理方法として、2種の化合物(PLL-g-PEG 及び MPCポリマー)、ポリマーの接着をコントロールする方法としてプラズマ処理の有無を検討した。結果、プラズマ処理後MPCポリマー塗布を行ったケースが、最も効率良く非特異的細胞接着を防いだ。 スタンプの構造評価に関しては、目標とするプリンティング面積に依存して、デザインをより正確に反映できる場合と、難しい場合があることがわかった。特に正確にデザインを反映しやすい大きさの構造のスタンプを利用して、細胞接着因子であるラミニンをプリンティングしたところ、おおよそ80%のパターン上に細胞が接着、増殖可能であった。ただし、面積で全細胞接着面のうち、接着因子をプリントした面積がどの程度含まれているかを検討したところ、全面積の10~100%と非常に広い分布を示した。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の目標は、マイクロコンタクトプリンティングのパターンを活かし、流速の影響を検討可能な、培養デバイスの作成である。 現在、以下の二つの構造を導入することによって、目標の達成を計画している。 一つ目は、マイクロコンタクトプリンティングによってプリントされた細胞接着因子の機能を保ったまま培養槽を形成するため、ソフトリソグラフィにより作成した培養槽構造を、陰圧により培養基板に圧着する方法を確立する。二つ目は、流速を変えてその影響を見るために、流れに対する異なる抵抗を生み出す構造を、流路の幅、高さ、及び長さを変更することで組み込み、流速ごとの定量的な影響を観察可能な構造とすることを計画している。特に、流速を調節する構造の組み込みは、まずは2つの流速の比較を行う構造を作成し、場合によっては段階的に流速を変化させた場合の影響が見られるようなデザインも考案する。 これらの構造を組み込んだデバイスを、マイクロコンタクトプリンティング後の培養基板上に実際に組み上げ、細胞を導入して培養状態のテストを行う。ここでは、マイクロコンタクトプリンティングの機能評価時に行ったような、接着効率の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の目標は概ね達成し、追加の消耗品を早急に必要とはしていなかったため、少額の残金を無理に使用するより次年度分と合わせて活用する方が、本来の研究の目標達成に適切と判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
ソフトリソグラフィ技術に不可欠な、光硬化剤の購入に利用する計画である(単価 10万円前後)。
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