研究課題/領域番号 |
15K06925
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
広井 賀子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20548408)
|
研究分担者 |
舟橋 啓 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (70324548)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 神経芽腫細胞 / 流れ / マイクロ流体デバイス / ベイズ統計 |
研究実績の概要 |
昨年度に続き、流路抵抗生成部を備えたマイクロ流体デバイスを用い、3つのチャネルごとに異なる流量下で培養を行い、流れのSH-SY5Yの神経突起慎重方向の分布への寄与を検討した。SH-SY5Yはレチノイン酸及び脳由来神経栄養因子を用いて分化誘導を行った。準備したSH-SY5Y細胞を培養デバイスに撒種し、静置培養の場合をコントロールとして、流路ごとに神経突起の伸長方向を計数した。取得したデータに対しベイズ統計解析を行うにあたり、神経突起方向の角度分布を説明する仮説として、灌流培養時に神経突起方向がランダムに分布するのか、または流れの方向に偏るのか、静置培養時と比較した場合灌流培養時は流れの方向に神経突起方向が偏るのか、またはその逆かを検討した。解析の結果、もっとも流量の小さい流路(0.017[マイクロリットル/分])においては、流れの方向に神経突起の伸長方向が偏る仮説は支持されなかったが、これより10倍、または100倍の流量のチャネル内では、静置培養と比較した場合灌流培養時は流れの方向に神経突起の方向が偏るという仮説が強く支持される結果となった。 昨年度までの成果として、流れがある場合、流量が増えるにつれ分化が誘導されやすい傾向が観察されている。今年度の成果と考え合せた場合、灌流培養下のSH-SY5Yは、分化が亢進さ、伸長した神経突起は流れに沿う形で伸びる傾向にあることが示唆された。 今後、一つの細胞型の細胞とインタラクションを形成する場合に、慎重突起の方向が流れと同じ方向なのか、または逆らう向きなのかなどを同定することで、流れを利用した神経細胞ネットワークの制御を実行する系の構築を目指す。この目的にあたり、神経細胞内の構造を観察できるマーカータンパク質の染色などを行い、視神経突起伸長が流れの軸にそうかどうかだけでなく、前後の方向も突き止めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに流量の異なる灌流培養環境内で、分化の特徴が観察されるのに十分な時間細胞を培養、観察、撮像することに成功しており、必要な解析のためのデータを収集することに成功している。 また、分化の促進、神経突起慎重方向の偏りなど、流れを利用した神経細胞ネットワーク制御に向けて活用方法を計画できる結果が得られており、今後の計画実行に着実に結びついている。
|
今後の研究の推進方策 |
神経細胞としてのシグナルの伝達の方向まで制御できるようにするためには、神経突起が形態的に流れに沿う方向に分布しているかどうかだけでは情報が十分ではない。 そこでまず第一に、様々な流量の流れを与えられる培養環境で、細胞-細胞間のインタラクションが観察できる培養方法を構築する。この目的で、事前の分化誘導方法、長時間の灌流培養の実現に必要なデバイス構造の検討を行う。また、デバイス内で増殖しながら分化する過程への流れを含む環境の影響を解析し、分化細胞が生じる方向の制御を行うことも視野に含める。 また、神経突起がどの細胞から、どの細胞に向かって伸び、インタラクションしているかを同定できるように、神経細胞内に発現が確認されている各種マーカーの染色、ライブイメージング系の構築などに着手する。 以上の検討を進め、流れを利用することで神経細胞ネットワークを予定した方向に構築することができるか検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主に本研究計画に携わってきた慶應義塾大学理工学研究科学生のうち2名が長期病欠し、病欠予定期間が不明であったため、一部資金を本年度中には使用しなかった。 次年度は、本年度に実行できなかった初年度成果に対するより厳密なコントロール実験の実行と、本年度の成果である突起伸長への影響の方向同定に関わるマーカーの探索、及び成果の出版、出版内容の国際学会発表に使用を計画している。
|