研究課題/領域番号 |
15K06926
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
木村 富紀 立命館大学, 薬学部, 教授 (40186325)
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研究分担者 |
西澤 幹雄 立命館大学, 生命科学部, 教授 (40192687)
稲葉 宗夫 関西医科大学, 医学部, 非常勤講師 (70115947)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA-seq法 / RIP-RT PCR / ヒトAgo2抗体 / RISC / ヒトインフルエンザウイルス感染 / IFN-alpha1 antisense RNA / ceRNA network |
研究実績の概要 |
1.平成27年度には、動物モデルで示したIFN-α1 asRNAによる同mRNAの転写後性安定性制御とその抗ウイルス効果を、形質細胞様樹状細胞 (pDC)を用いて検証しヒトにおけるPOCに代えることを計画した。しかしpDC採取数はCD304陽性粗分画が3x10の4乗~3x10の5乗/末梢血120mlと少なく、予定実験に必要なRNA量を確保できなかった。そこで当初28年度以降に計画した「RNA-seq法による、ゲノムレベルでのasORNのoff-target効果の検討」を前倒し実施することにした。この目的で、ヒトBリンパ芽球細胞Namalwaを用い、ウイルス感染がトランスクリプトーム発現に及ぼす影響を検証する系を検討した;即ち、RNA-seq法を用い、ウイルス感染前後のトランスクリプトームを比較解析した。しかし、得られたリード結果の大部分はHouse-keeping遺伝子由来であった。また残りのリードにおいても、目的のmRNA:asRNAリード比は小さく、これまでのPCR結果と矛盾することから、非特異的なBackgroundが読み込まれていると判断した。この結果を基に、ヒトAgo2抗体を用いたRNA免疫沈降法を予め行い、RISCと複合体を形成するmRNAやasRNAを特異的に回収することで、シグナル選択性の改善を図った。 2.IFN-α1 asRNAの分子作用機序として報告したmRNA標的二次構造に対する直接効果とmicroRNAに対するcompeting endogenous (ce)RNAとしての拮抗作用を鑑別する目的で、夫々を分別する変異asRNAを作成し、ウイルス感染後のmRNA安定性制御過程における両作用を比較、検討した。 3.上述のceRNA networkを介する遺伝子発現制御系が、新たな核酸医薬開発の標的となる可能性を考え、これを文献的に考証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.平成27年度実施研究計画:ヒト末梢血由来pDC初代培養系の確立に関しては、必要数のpDCを得ることができなかったため、今後は末梢血単核球で代用を予定する。次いで、次年度計画を前倒し、今後の研究に必要なRNA-seq法によるトランスクリプトーム解析系の確立を図った。その目的で、GENEWIZ社にNGSを外注し、rRNA除去済みの総RNAに対しpaired end reading, 2x100 bases, 4 Gb/sampleの条件下にトランスクリプトーム解析をした。しかし、House-keeping遺伝子mRNA由来のリード数が全体の25~50%を占めるのに加え、残りのリードRNAは我々がceRNAとして報告したCAPRIN1 mRNA等、相対的に発現が高いmRNA群に限られていた。そこで、これらのceRNAとIFN-α1 mRNA/asRNAを共に認識するmiRに着目し、Ago2に対する抗体を用いてRNA共免疫沈降による目的mRNA群の特異的濃縮を図った。現時点で、RIP実施に必要な諸条件の至適化を済ませ、EF, CAPRIN1各mRNAの特異的PCR増幅に成功した。 2.IFN-α1 asRNAによる同mRNAの安定性制御機構の検討について: IFN-α1 mRNA上の標的二次構造BSLを認識しない変異asRNAとmiR標的MRE配列を変異させceRNA能を欠失させた変異asRNAを作製し、これまでにこれら制御能の欠損を導入細胞で確認した。今後、感染後の時間経過に応じた両安定性制御機序の協働を検討し、該当mRNAの安定性制御機構に関し解析を進める。 3.論文発表について: ceRNAネットワークに関して、新たな核酸医薬創薬のための分子ターゲットとなることを総説として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1.「ヒト末梢血由来pDC初代培養系の確立」に関して Biffen et al., British Journal of Pharmacology, 2012に、ヒト末梢血単核球 (PBMC)を用い、IFN-α1 mRNAシグナル検出の報告があった。PBMCは、末梢血1 microliterあたり7-9 x 10の3乗個を得ることができるので、Namalwa細胞と同等の細胞数をRNA解析実験に供することが可能であり、今後pDCに替えてPBMCを用いる実験系を早急に確立する。 2.RIP-RNA seq法によるヒトトランスクリプトーム解析系の確立について 1サンプルあたり2 x 10の6乗個のNamalwa細胞を用いてRIPを行なった場合、Ago2と複合体を形成し共沈するRNAから、EF mRNAとCAPRIN1 mRNAシグナルの検出に成功している。Namalwa細胞におけるCAPRIN1 mRNA分子数とIFN-α1 mRNA分子数比は30~50 : 1であることが測定済みであるので、今後RT-PCRによる検出感度を上げ、現時点で未検出のIFN-α1 mRNAシグナルを検知可能にするため、RIPに供する細胞数やAgo2抗体量等、免疫沈降条件のさらなる至適化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルバイト謝金として支払いを予定していた労災保険料を大学が負担したため、相当額が戻し入れられ、余剰金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度研究費残額1,864円は、次年度予算に繰り越して使用を予定する。
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