研究課題/領域番号 |
15K06938
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
田中 和明 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50345873)
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研究分担者 |
南 正人 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (10548043)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニホンジカ / 遺伝的多様性 / ミトコンドリアDNA / 群馬県 / 長野県 / 尾瀬 / Y染色体 / マイクロサテライト |
研究実績の概要 |
群馬県(尾瀬周辺地域151個体、赤城山周辺地域92個体、県西部8個体)における251個体と、長野県(浅間山、軽井沢町、長和町)から得られた56個体のニホンジカ組織試料よりDNAを抽出した。これらの307個体DNA試料を使って、ミトコンドリアDNAのコントロール領域の配列を決定した。群馬県のニホンジカ251個体からは6種類のハプロタイプが見つかった。これを、ハプロタイプGunma01,Gunma02,Gunma03,Gunma04,Gunma05,Gunma06と呼ぶことにする。このうち尾瀬周辺地域で捕獲された2個体は、Gunma01とGunma02のヘテロプラスミーであった。群馬県では、Gunma01の頻度が著しく高く、251個体中228個体(90.8%)から認められた。群馬県内の3地域を比較すると、県東部に位置する尾瀬周辺地域と赤城山周辺地域では、ともにGunma01が90%以上を占めていた。これに対して、県西部では、調査個体数が不足しているもののGunma01の頻度は低く、Gunma04が、最頻ハプロタイプであった。出現ハプロタイプ数は、尾瀬周辺地域で5タイプ(151個体)、赤城山周辺地域で2タイプ(92個体)、県西部で3タイプ(8個体)であった。これに対して、長野県のニホンジカでは、56個体の解析で、11種類のハプロタイプが見つかった。このことから、群馬県東部に生息するニホンジカ集団のミトコンドリアDNA多様性は、長野県の集団に比べて低い事が示された。また、群馬県西部で高頻度で認められたGunma04は、長野県軽井沢周辺で捕獲されたニホンジカにおいて、もっとの頻度が高いハプロタイプ(Nagano01)と同一の塩基配列であった。このことから、群馬県西部地域に分布するニホンジカは県境を越えて長野県まで広域に行き来していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
群馬県立自然史博物館などを通じて研究計画に従った数のニホンジカ試料の収集を進めることができた。初年度の実績では、群馬県西部地域は8個体しか解析できていないが、組織試料の収集は順調に進んでいる。ミトコンドリアDNAの解析のみの結果ではあるが、群馬県で、ニホンジカの生息密度が高い県東部でのハプロタイプ構成を明らかにすることができた。これにより、隣接する長野県との比較が可能なった。長野県および山梨県においても試料の収集が進んでいる。 ニホンジカの集団解析に利用するマイクロサテライトマーカーとして、BL42、 BM203、BM4107、BOVIRBP、Cervid14、CSSM019、OarFCB193、RM118、CSSM66、INRA128、BMC1009、およびT172の合計12座位のマイクロサテライトマーカーを選定し、有効性を確認できた。これによって、ニホンジカの集団の遺伝解析を行う準備が整った。 ウシ由来のY染色体マイクロサテライトマーカ(INRA057、 INRA062、INRA124)がニホンジカに対して有効であるかどうかの検討を行った。しかし、PCRにおいて、遺伝子型判定に必要な、単一バンドの増幅産物が得られなかった。これらのウシY染色体由来マイクロサテライトに関しては、PCR条件を再検討して、利用可能性の有無を確認する必要がある。しかし、ウシ由来Y染色体性マイクロサテライトマーカが無効であった場合にも、すでにニホンジカY染色体上に存在するZFY遺伝子とAMELY遺伝子に存在するSNPマーカーが準備できている事から、当初の計画に従った父系遺伝マーカーの解析も実施可能である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の秋から冬に収集した組織標本からゲノムDNAを抽出する。平成28年度末までは引き続きニホンジカの試料収集を継続し解析個体数を増やすことで、より詳細な集団構造を明らかにする。 試料収集ができた全ての個体に対してmtDNAのコントロール領域の塩基配列を決定する。決定した配列を、前年度までの結果に追加し、分子系統樹の作成および、ネットワーク解析、AMOVA解析を行う。これによって、関東甲信地域のニホンジカの母系遺伝子構造を明らかにする。選定が終わったマイクロサテライトマーカー遺伝子座について、ABI3130型genetic analyzerを用いて、遺伝子型判定を行う。この結果を、コンピュータープログラムSTRUCTUREを用いてクラスター分析し、群馬県と長野県に分布するニホンジカの分集団構造を明らかにする。Y染色体上に存在するZFY遺伝子とAMELY遺伝子のイントロン領域のSNP型判定を行いY染色体のハプロタイプを再構成し、ニホンジカ集団内に存在するY染色体の多様度を明らかにする。 これら遺伝様式が異なる遺伝子マーカーを用いた集団解析の結果を統合することで、甲信越地域のニホンジカの集団構造や個体の移動拡散様式を解明する。さらに、地理的な距離と、遺伝的な距離との間に対応があるかどうかを解析することで、ニホンジカの移動拡散経路を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者である南正人が、平成28年3月に長野県と群馬県で現地調査を行うために出張を予定していたが、現地の都合により4月以降に延期されたため執行額が約6万円少なくなっている。また、平成28年の冬季に採取されたニホンジカの試料分析を行うための消耗品の購入代金として約15万円の出費を見込んでいた。しかし、試料の到着が5月となったため試薬類の発注を行わなかった。このため合計21万円の繰越金が発生している。
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次年度使用額の使用計画 |
到着が遅れていた試料が、本年5月中に到着見込みであることから、逐次分析を開始する。分析予定の試料数には変更が生じていないので、昨年度に執行しなかった研究費を加えて、予定数の試料分析を進めていく。また、昨年度の分析結果をふまえて、研究分担者による現地調査も本年度前半に実施する。
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