最終年度には、群馬県東北部(一之瀬、戸倉、丸沼、利根町、昭和村、桐生市、赤城、赤城山、富士見、前橋)、西南部(東吾妻、松井田、下仁田、南牧村、甘楽町、富岡、高崎)および、長野県(浅間山)の13の地区から得られたニホンジカのマイクロサテライトマーカー型に基づく集団解析を行った。BL42、BM203、BM4107、CSSM019CSSM66、BMC1009、T172、CSSM041、BOVIRBP、Cervid14、INRA128、OarFCB193、RM118の13遺伝子座を用いたが、BOVIRBP以下の5つは型判定の精度が不十分であったため除外し、最終的に8座を用いて遺伝的多様性および集団構造を解析した。平均ヘテロ結合度の期待値(He)は、0.53から0.77(平均He=0.67)の範囲で遺伝子座あたりの対立遺伝子の平均数(Na)は全体の平均で4.22であった。対立遺伝子頻度に基づいて集団間の遺伝的距離を算出しNJ法による系統樹の作成を行った結果、13の地区は、地理的な分類と矛盾なく、群馬県内では東北部と西南部集団に分割され、長野県浅間山は群馬県西南部集団に近い関係にあった。これは昨年度までに解析を行った母系遺伝するmtDNAの結果と一致しており、群馬県内でニホンジカが2つの集団に明確に分けられることが強く裏付けられた。さらに、コンピュータプログラムSTRUCTUREを用いた解析では、分集団数(K)が 2の時に最も高い⊿ K が得られたため2つの祖先集団の存在が示唆された。2つの祖先集団は、上記2集団と対応していた。しかし、個体別の祖先ゲノムの分布を解析すると、少数ではあるが採取地域とは逆の祖先集団のゲノム割合の高い個体認められた。このことは、集団の構成に影響を与えるレベルには至っていないが、2集団間で個体の交流が生じていることを示唆すると考えられた。
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