研究課題
本研究は、両生類の新興病原体であるカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis;Bd)が日本の両生類に与える影響を宿主と寄生体(病原体)の双方を解析して評価し、なぜ日本の両生類は死なないのか、その機序を解明しようとするものである。病原体に関して、2015年は日本の自然界におけるBd分布とその検出率を把握するととも、Bd培養株樹立を行った。その結果、44か所から採取した835匹中266匹からBdが検出され、19都県29か所と広域分布が確認できた。検出率は3~100%で、うち、68検体のITS-1-5.8S-ITS2領域に関連するハプロタイプ型別に成功し、41という多くの種類のハプロタイプが同定された。また、樹立培養株数は50株に達した。株によって培養のしやすさ、増殖速度や遊走子嚢のサイズに多少の違いがあったが、ITS-1-5.8S-ITS2領域ハプロタイプ型別ができた2か所の採取地に由来する7株すべてがEタイプであった。そして、他の遺伝子座を検索したところ、先にツボカビ症のカエルより樹立されたAおよびC株(病原性Bd)と同様にBd-GPL(流行株)に区分された。宿主に関して、ツボカビ症の病理発生を明らかにするため、両生類皮膚の水透過性異常に注目した。今回、検索対象としたアクアポリンは水分子のみを選択的に通過させる主要膜タンパクの一種である。実験的にBd感染カエルを作出して、水透過性を検討したところ、カエルの種類によって反応性が異なったが、Bd高感受性カエルであるイエアメガエルLitoria caeruleaでは、Bd感染によって皮膚水透過性が障害され、膠質浸透圧と血清中電解質(Na、Mg、Ca、Cl)の低下が生じることが明らかになった。日本の両生類のBd抵抗性の機序解明は流行国の両生類保全に貢献するであろう。
2: おおむね順調に進展している
日本の両生類がカエルツボカビ(Bd)の影響を受けない機序を解明するため、病原体に関して、予想以上に多い50株というBd培養株の樹立に成功したこと、そして、一部の培養株に関して、ハプロタイプは元より、3つの遺伝子座の解析が始められたこと。この作業により遺伝子解析の至適条件が設定されたことから、今年度は、より多くのBd株を迅速に解析できるようになった。宿主に関して、Bd感染が皮膚水透過性に影響を与えることが証明できたこと。これにより評価手法が確立され、Bd高感受性カエルと低感受性カエルにおけるBd感染の影響を評価できるようになった。
病原体に関して、1)それぞれのBd培養株の遺伝子型別、系統解析を行う。日本由来のBdには、ITS-1-5.8S-ITS2領域に多様性があるため、まだ、解析が終わっていない培養株の本領域による型別(ハプロタイプ)を行う。世界的にはBdの遺伝的多様性は17の遺伝子座の比較によって検討されているが、多くの研究者が採用している3つのマーカーについて、優先して遺伝子解析を行う。必要に応じて複数の遺伝子領域を用いたmultilocus sequnece typingを実施し、諸外国のBd(Bd-GPL やBd-Brazilグループ)と国内で分離されるBdとの比較検討を行い、さらに系統解析をする。2)ハプロタイプあるいは遺伝子型によるBdの形態、増殖態度および培養性状を検討する。3)病原性に関連する因子を解析する。培養株ごとにプロテアーゼなどの酵素活性をみる。病原性に関連する遺伝子解析を行う。4)型別したBd培養株それぞれを用いて感染実験を行い、病原性の有無、その強さについて検討する。宿主に関して国内両生類のBdへの抵抗性を解析する。1)両生類皮膚の抗菌ペプチドの解析 下等動物において、抗菌ペプチドは重要な感染防御機構を担っており、病原体の宿主への侵入を阻止している。実際、アフリカツメガエルの皮膚粘液のBd増殖抑制効果が報告されており、ニホンアカガエルは、Temporin1に分類される7種類の抗菌ペプチドなど多くの抗菌ペプチドを有していることから、Bd抵抗性両生類皮膚抗菌ペプチドを検索する。2)Bdへの感受性の異なる両生類を対象として、Bdがアクアポリンに与える影響を水透過試験で検証する。その他、両生類のMHCクラスⅡB遺伝子領域の対立遺伝子がBd抵抗性に関連するとの説があることから在来種について検索を行う。以上、双方の解析成績を総合的に分析して、日本の両生類のBdへの抵抗性に関わる要因について検討する。
次年度使用額が5円ある。これは支出内訳に基づいて支出したが、5円の端数が残ってしまった。
28年度の助成金に加えて支出する予定である。
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